コロッと二児の母の顔に戻った彼女は、飛び立っていく飛行機を目で追いながらうっとりとして言う。

「彼とバンクーバーで出会って、帰りの便まで一緒でその後食事して……って。これで運命の相手じゃなかったら神様殴るわ。もう結婚しちゃえ」
「っ、ごほごほっ! ……け、結婚!?」
「やーだ、冗談よ。動揺しすぎ」

 ご飯が喉に詰まりそうになってむせると、郁代さんはけらけらと笑って私の背中をさすった。

 さすがにまだ求婚された話まではしていないのに、なんで知ってるの!?と思ってしまった。そりゃあ冗談だよね。いくら偶然の出会いが重なったからとはいえ、普通はすぐに結婚まではいかないだろう。普通は。

 改めて考えると、今の私の状況は非現実的だ。このまま彼に流されたら、いいこともあるだろうけれど、それ以上に大変な日々になるのは目に見えている。

「……どうして神様は、お金もないし才色兼備でもない、こんな地味な女を彼と巡り会わせたんだろう。絶対に釣り合わないのに」

 ずっと同じ思いがぐるぐる巡っている。羽澄さんは『釣り合わないなんてことはない』と言ってくれたけれど、やっぱり私と彼とではなにもかも違いすぎて、一緒にいるのはためらわれる。