妹の結婚式での出会いから始まり、ふたりで食事したことや彼の身分について説明すると、郁代さんは目をまん丸にしている。

「彼がハスミグループの御曹司なんだ~。ちらっと話には聞いてたけど、あんなにカッコよくて素敵な人だとは思わなかった。私たちに『いつも綺麗にしてくれてありがとう』ってお礼を言うなんて」
「直接感謝されることって少ないですもんね」

 そう言ってウインナーを口に放り込むと、郁代さんはうんうんと頷く。

「清掃員だからって、『このゴミ片づけといて〜』って渡してくるお客さんとかもいるじゃない。ほんっと羽澄さんを見習ってほしいわ。こちとら手鏡でトイレの下まで覗いて磨き上げてんのよ? もっと敬えっての。そしてそのたるんだ精神もまとめてゴミ箱に捨ててこいや!」
「郁代さん、荒ぶってます」

 すぐさま注意すると、はっとした彼女は「いっけなーい」と可愛らしい声を出して口元に手を当てた。

 郁代さんは今でこそよきママだが、昔はだいぶ荒れていたそうで時々その片鱗が見えることがある。綺麗な見た目に似合わず、ちょっと感情が昂ると口が悪くなるので、宥めるのは私の役目だ。