「あ、郁代さん。お疲れ様です」
「芽衣子ちゃん! なんか久しぶり~!」
「休みが重ならなかったですもんね」

 掃除道具を手にしてぱっと表情を明るくする彼女に、私も心が和むのを感じながら笑顔を返した。私と入れ替わりのような感じで彼女が連休に入ったため、会うのは少し久々だ。

 郁代さんは三十二歳で、小学生の兄弟ふたりを育てるママである。マロン色の長い髪とメイク映えする綺麗な顔立ち、私服もおしゃれなので実年齢よりも若く見える。

 私がこの仕事を始めた時から一番親しくしている先輩で、時々手作りのお惣菜を分けてくれたり相談に乗ってくれたりする、世話焼きないい人なのだ。

「初海外から無事帰ってこれてよかった。お土産置いてあるの見たよ。早くお茶したーい」
「郁代さんには個人的に買ってきたので、また後で渡しますね。カナダ産のアイスワイン」
「まっじ!? 超嬉しい! ありがとー」

 お酒好きな彼女は、目をきらきらさせて喜びを露わにした。とても明るく、感情を素直に表すので愛嬌がある。

 たくさん話したいことはあるが、清掃員も人に見られているのを意識して働かなければならない。無駄話は極力やめて「バンクーバーの話早く聞きたいけど、休憩まで我慢するわ」と言う郁代さんと、それぞれの仕事に戻ろうとした時……。