今すぐ返事をする勇気はさすがになくて、私は無難な道を選ぶ。

「……少し考えさせてください。次の休みが合う時に、また会えますか?」
「もちろん。落ち着いて考えて」

 ひとまず猶予を与えてもらえてほっとした。それもつかの間、羽澄さんは意味ありげに微笑み、私の左手をエスコートするように持ち上げる。

「いい返事を期待してる。ここに指輪を嵌めさせてくれ」

 薬指に彼の顔が近づき、ちゅ、と軽く唇が触れた。

 ──キ、キスしたっ!? まさか指に口づけられるなんて……!

 想像もしていなかった事態に、ぶわっと一気に顔が熱くなる。口をぱくぱくさせるだけで声も出せない私に、彼はしたり顔で笑った。

 極上というべき御曹司パイロットとの結婚は、本当に私の寿命を捧げるものになるかもしれない。