また別の心配が生まれ、火照った顔を俯かせた時、彼がある提案をする。

「だから、とりあえず一年契約にしようか」

 急に事務的な言葉が出てきて、浮ついていた心が一瞬現実に引き戻された。そうか、結婚とひと口に言っても今はいろいろな方法があるんだ。

「契約婚、ですか」
「ああ。一年後、俺との生活に嫌気が差したなら離婚しても構わない。逆にずっと一緒にいたいと思えたら、契約はやめて普通の夫婦になる。それでどう?」

 一年間はお試しのような期間ということか。羽澄さんは一度結婚してしまえばしばらく見合い話を出されないだろうし、私としても、やめてもいいという選択肢があることで結婚のハードルが下がる。わりといい方法かもしれない。

 とはいえ、私は本当に地味で平凡な女なのに彼がこんなに望んでくれるなんて、どこかに落とし穴があるんじゃないかと勘繰ってしまうのも事実。羽澄さんが悪巧みしていると思っているわけではなく、ただ自分に自信がないだけなのだが。