大人になって、男性と手を繋いだ経験すらない。けれど、彼に触れてみたい好奇心が湧いてきて、ぎこちなく手を伸ばしてみる。

 重ねた手をしっかりと握られ、ゆっくりと足を踏み出す彼に合わせて歩き出した。始めは汗を掻いてしまいそうなくらい緊張していたけれど、彼の手から伝わってくるぬくもりが心地よくて、次第に心が安らいでくる。

「小さくて細い。芽衣子さんの手」
「……羽澄さんは大きくてあったかいですね」

 素直な感想を伝え合い、自然に口元が緩んだ。

 手を絡めているだけで、誰かと繋がっていると直に感じられて安心する。友達同士でも大人になればもう滅多にこんなふうにはしないし、これも恋人同士がする愛情表現のひとつなんだなと初めて実感した。

 なんだか甘酸っぱい気持ちを味わっていると、羽澄さんが「結婚のことだけど」と切り出す。

「無理強いはしない。でも、芽衣子さんのような人にはもう出会えない気がするから、俺も簡単に引くつもりはない。もう一度会いたいと思った女性は君が初めてなんだ」

 きゅっと手の力が強められ、緊張が舞い戻ってくる。

 どうしよう……羽澄さんといるとドキドキしてばっかりで、寿命が縮みそうな気さえするんですが。こんな調子でこの人と結婚なんてできるの?