「ど、どうして……私はただの清掃員ですよ? 羽澄さんのような方に釣り合うわけがありません」
「小さな汚れにも気づいて、仕事中じゃないにもかかわらず掃除するような人だから、俺は芽衣子さんを選んだんだよ」

 迷いなく返された言葉に胸を打たれて、私はすぐに視線を戻した。

 彼が言っているのは、さっき空港で椅子を拭いていた時のことだろう。掃除をするのは当然で、感謝されることは少ないし、そういうものだと自分でも思っている。なのに、そんな些細な部分を重要視してくれるなんて。

 羽澄さんは他の人とは違う。そう漠然と感じて胸が高鳴るけれど、やっぱり大富豪の彼と私とでは格差がありすぎる。

 そう簡単に承諾する気にはなれない私を、彼はさらに口説き落とそうとしてくる。

「どんな職業であれ君も立派に働いているんだから、その点では釣り合わないなんてことはないだろう。生活水準が違っていても結婚すれば同じだし、君も治安の悪い街 に住む必要はなくなってもっと豊かな暮らしができる。それに、もうひとりじゃなくなる」

 彼の言葉はどれもはっとさせられるものだったが、最後のひと言には特に大きく心を揺さぶられた。梨衣子がいなくなったあの部屋に、ひとりきりでいる寂しさを感じなくて済むのは助かるかもしれない。