確かに異色の経歴だし、この若さで大企業の社長に就任したら相当注目されるに違いない。周りのお偉いさん方からも頼まれているなんて、羽澄さんはかなり優秀で頭の切れる人なのだろう。

 でも、そうなると今の仕事を続けていられなくなる。夢見ていた世界にやっとたどり着けたところで、あんなに素晴らしい腕を持っているのに。

「パイロット、辞めちゃうんですか?」

 眉を下げて問いかけると、彼はこちらを一瞥して少し寂しそうに微笑んだ。

「本当はずっと続けていたい。でも、最初から後継者になるはずだったところを、俺のわがままでパイロットの道へ進んだ。好きなことをさせてくれた父への恩もあるし、なにより思い入れの強い会社だから助けたい気持ちもある」
「……さっき『好きにやっていられるのも時間の問題だろう』って言っていたのは、そういう意味だったんですね」

 羽澄さんはまつ毛を伏せて「ああ」と頷いた。

 もしかしたら、子会社に入っていち早く機長になれる道を選んだのも、いつまでもパイロットをやれはしないと覚悟していたからなのかもしれない。でも、夢を叶えたらそれで満足するわけではないだろうし、たくさん葛藤しているはず。

 彼の複雑そうな表情からも、それはひしひしと伝わってくる。