本当に冗談じゃないのだろうか。私も笑みが作れなくなってどぎまぎし始めると、「話を聞いてくれるか?」と問いかけられる。

 私なんかに結婚話を持ちかける理由はもちろん知りたい。こくりと頷くと、羽澄さんはおもむろに手すりのほうに歩み寄り、事情を話し始める。

「実は、日本アビエーションは年々減収が続いている 。まだ危機的状況というわけではないが、革新的な策を講じなければいずれそうなってしまうだろう」
「そうなんですか!? 業績が落ち込んでいるという噂は小耳に挟んでましたけど、本当だったんですね……」

 空港で働いていると航空会社の話題も時々耳に入ってくるが、確かな情報でないものは鵜呑みにしないようにしている。日本アビエーションの件も話半分に聞いていたけれど、本当に経営難だったとは驚きだ。

「航空会社は世界情勢や市況に左右されやすいからな。グループ企業の中では日本アビエーションが足を引っ張っていて、合併の話まで出ている状態だ」

 気だるげに手すりに肘をかける彼の表情も浮かない。

「そこで、父は俺に『日本アビエーションの社長になって、経営を回復させてほしい』と頼み込んできた。今の道に進もうと決めるまでは経営の勉強もしていたし、実際に働いて会社のことはだいたいわかっているから。パイロット経験者の社長となったら話題性も抜群だしな」