「それはまあ、人並みに。あいにく予定は皆無ですが」

 幸せそうな梨衣子を見ると、いいなとちょっぴり羨ましくなるけれど、誰とも交際経験のない私が結婚できるのはいつになるやら。苦笑するしかない。

 その時、ふいに羽澄さんが立ち止まったので、私もつられて足を止める。

「なら、君の相手に俺が立候補させてもらう」

 ……ちょっとなにを言っているのかわからない言葉が返ってきて、見開いた目をしばたたかせた。「はい?」とまぬけな声を漏らす私に、彼はしっかり向き直ってもう一度告げる。

「結婚しないか、俺と」

 ──今度ははっきりと、疑いようのないプロポーズをされた。硬直する身体に反し、心臓は大きく飛び跳ねる。

 が、到底本気にはできない。一瞬動揺したものの、すぐに気持ちは落ち着いていく。

「あ、あの……さっき私のこと純粋だって言ってくれましたけど、さすがにそんな冗談を真に受けるほどじゃありませんよ」
「冗談で求婚なんかしない。至って真剣だ」

 軽く笑い飛ばそうとした私に、羽澄さんは真面目な表情を崩さず言い切った。