羽澄さんは綺麗な所作で天ぷらを口へ運び、ほんの少し心配そうな表情を見せる。

「しかし、そんなに苦労してきたとはね。妹さんがいたから生活費は折半していたんだろうけど、これから大丈夫なのか? 食費はかからなくなっても、家賃や光熱費はたいして変わらないだろ」
「貯金がまったくないわけじゃないので、ひとりでもやっていけますよ。貧困層が集まってる地帯で、家賃はかなり安いですし」

 羽田空港まで電車で約十五分の場所にあるわが家は、2DKでまあまあな広さのアパートだが、なにせ築年数が経っているので東京の家賃相場からするとだいぶ安い。アパートの周辺は似たような家がたくさんあり、だいたいの人が質素な生活をしている印象だ。

 それを聞いた羽澄さんは、わずかに眉をひそめる。

「それは……治安が心配なんだが。酔っ払いがたむろしてたりしないだろうな 」

 確かにアパートの近くには古びた簡易宿所がいくつもあり、生活に困っている人たちも多い。昔、あの辺り一帯は日本のスラム街と呼ばれるほど劣悪な生活環境だったらしいと、母から聞いた覚えがある。

「 酔っ払いさんはよくフラフラしてますね。でもそれくらいで、大きな犯罪が起きたって話はほとんど聞かないし、ずっと住んでるところなので大丈夫ですよ」