大きな美しい器に数種類のおかずが品よく盛られた御膳を、手を合わせてさっそくいただく。数日間日本にいなかっただけで和食が恋しくなっていたようで、素材の味を活かした料理はどれもとても美味しい。

 新鮮なお刺身も上質な脂が乗っていて、普段自分が買うものとは全然違う。「とろける~」と声をあげて舌鼓を打つと、羽澄さんも嬉しそうにしていた。

「料理もすごく美味しいし、景色も最高で素敵ですね。私、外食はあまりしないので、こういうお店を全然知らなくて」
「ちゃんと自炊してるのか。えらいな」
「昔からお金がなくて大変だったせいか、節約するのが癖みたいになってるだけですよ。清掃員のお給料じゃ心許ないですし」

 必要以上の出費をせず、なんとなく不安で貯めているのだが、つまらない人生だよなとも思う。梨衣子に『自分のために生きてね』と言われた通り、これからはもう少し好きなことに使おうか。

「でも、もう貯金ばかりしなくてもいいなって思ってます。ここの代金もちゃんと支払いますからね」
「支払わせる気なんて最初からないよ。俺にカッコつけさせてくれ」

 苦笑交じりに言われ、そうか、こういう時は男性を立てるべきなんだと反省する。

〝すみません〟と口から出そうになったけれど、ここもきっとお礼のほうがいいのだろう。「ありがとうございます」と微笑み、ぺこりと頭を下げた。