「あの、さっきの操縦すごかったです! 二回目の着陸で斜めになったまま降りていくからハラハラしちゃいましたけど、強い風に負けずスムーズに着地して感動しました。皆さん拍手してたんですよ」

「ああ、あれは横風に流されないように機首を風上に向けてたんだ。カニ歩きみたいに横を向いて進むから〝クラブ〟って呼ばれてる」

「なるほど……! 神業ですね」

 後ろの席の男性が呟いていたのはこのことだったらしい。あの大きな機体を操るのだからパイロットの手腕は本当にすごいなと、感服のため息が漏れた。

「そういう方法を知らないと怖かったよな」
「あはは、ちょっとだけ。でも、羽澄さんが粋なアナウンスをしてくれたから、他のお客さんも安心したみたいでしたよ。あと、〝この機長さんは絶対素敵な人だ!〟って確信してました」

 なにも考えずそう口にして、言った直後に正直すぎたかなと少し恥ずかしくなった。一瞬目を見開いた彼は、口元に軽く丸めた手を当ててぷっと噴き出す。

「そう? 芽衣子さんは本当に純粋で可愛いね」

 気を許したように笑う姿と、さらっと口にされた甘いひと言に、胸がきゅうっと締めつけられた。

 男性に『可愛い』と言われた経験があっただろうか。お世辞だとしてもこういうことに対する免疫がなくて、どう反応したらいいのかわからない。