ひと息ついたところで、リラックスした様子の羽澄さんが思い出したように問いかける。

「そういえばあの後の食事会、ロブスターは出てきた?」
「あ、出てきました! 羽澄さんのおかげで恥をかかずに済みました」
「それはなにより」

 遅ればせながら感謝すると、彼は口元を緩めて湯呑を口へ運んだ。

 彼の言った通り、豪快な殻つきのロブスターが出てきて目を丸くした私。しっかり身が詰まっていて汁まで美味しかったなと、濃厚な味を思い出す。それも含め、私がバンクーバー旅行を最後まで楽しめたのは、羽澄さんの力が大きい。

「羽澄さんには助けられてばっかりです。励ましてもらえてだいぶ気持ちは前向きになったし、今も奇跡的に会えてひとりじゃないことが嬉しいです」

 一週間ほど前から梨衣子はバンクーバーへ旅立っていたけれど、式も終わって今日から本格的にひとりになる。アパートに帰ったらきっと孤独感が増すだろうなと覚悟していたものの、思いがけず楽しい時間を過ごせてよかった。

 羽澄さんはふっと笑みをこぼし、「こんなことでよければ、いくらでも」と言う。

 大人の余裕と包容力のある人だなと、つくづく感じる。アナウンスからもそれは伝わってきたし……と、先ほどの出来事を思い出した私は、興奮が蘇ってきて前のめりに話す。