ひとり乗り込んだ羽田空港行きの日本アビエーション305便は、ほぼ満席の状態で定刻通りに離陸した。飛行機に慣れていない私は、離着陸の瞬間は毎回ドキドキしてしまう。

 とても素敵だったバンクーバーの街があっという間に小さくなっていくのを、センチメンタルな気分で見下ろす。やがて雲を抜け、真っ青な空を悠々と進んでしばらくすると、機長からのアナウンスが流れる。

《ご搭乗の皆様こんにちは。操縦席、当便の機長でございます。本日も日本アビエーションをご利用いただき、誠にありがとうございます》

 あれ? この声って……。ふと頭の中である人の姿が浮かび、アナウンスに耳を澄ませる。

 穏やかかつ芯のある低めの声、丁寧で安心する話し方、それは昨日聞いた羽澄さんのものとよく似ている。

 ハスミグループの中でも重要な企業のひとつである国内最大手の航空会社は、この日本アビエーションだ。羽澄さんの職業は聞いていないけれど、まさか……。

 いやいや、さすがに違うよね。彼がこの会社で働いているとしても、きっと経営のほうを担っているだろうし、パイロットなんてことはないだろう。

 ちょっとした繋がりがあるだけで羽澄さんの声に聞こえてしまうなんて、昨日の印象がよっぽど強かったのか。