予想外の提案にキョトンとする私。願い事を口にすると叶いやすいという話は私も聞いたことがあるし、〝会いたい〟じゃなく〝会おう〟という言い方には、確かにより強い意思を感じる。

 つまり、羽澄さんの願望って……私とまた会いたいと思ってくれているということ?

 そう解釈した瞬間、トクンと軽やかに胸が鳴った。もしも叶うなら私も会いたいという願いが心に浮かび、自然に表情がほころぶ。

「はい。また会いましょう」

 彼に倣って、私も断定的にしてみた。素直にそう口にできたのは、自分の気持ちを大事にしていいと言われたおかげかもしれない。

 羽澄さんは小さく頷き、魅惑的な笑みを残して歩き出す。

 彼の凛とした後ろ姿をしばし見つめていると、最初に会ったバス停の辺りで見るからに高級そうな車が停まっているのに気づいた。その運転席から下りてきた男性がドアを開け、羽澄さんはそこに乗り込む。

 あれはハイヤーだろうか。さすが御曹司、移動までスマートでため息がこぼれる。そんなお方と話してしまったなんて、夢でも見ているみたい。

 連絡先も、どこに住んでいるかすらも聞かずに、奇跡のような再会を願って彼は去っていった。儚くて心許ない別れだけれど、不思議と私たちにはこれが合っているような気がする。

 ゆっくり動き出す車を見送り、別方向へ歩き出す私の胸はしばらく高鳴りがやまなかった。