「殻つきロブスターの食べ方、教えてあげようか」
「お願いします」

 さっきとは打って変わってすっきりとした気分で答え、目を見合わせて笑った。

 食事会が始まるまでの少し間に、羽澄さんは丁寧に食べ方を伝授してくれた。

 異国の地の、花に囲まれたガーデンにふたりきり。ロマンチックなシチュエーションで話すのはロブスターの食べ方という、なんとも不釣り合いな状況だけれど、私にとってはとても特別なひと時だった。

「じゃあ、俺はこれで」
「本当にありがとうございました。羽澄さんのおかげで、気持ちが軽くなりました」

 去ろうとする彼に、私は感謝を込めて頭を下げる。

 私たちは今日限りで、きっともう会うことはないだろう。一度だけでも接することができた満足感と、妙な物寂しさが入り交じり、複雑な気分でまつ毛を伏せた。

「……またいつか、日本で会おう」
「え?」

 ふいに、まるで約束しているかのようなひと言が告げられ、私はぱっと顔を上げる。羽澄さんはどことなく含みのある笑みを浮かべ、こちらを見つめている。

「願望は口に出すと叶うってよく言うだろ。さらに断定的にすると、その通りになる力が働くらしい。本当なのか試してみないか?」