人前で泣いたのはいつぶりだろう。初めて会ったばかりなのに、こんなに心を開かせてくれる羽澄さんは、王子様というより魔法使いみたいだ。

 ひとたび泣いてしまうと、途端に涙が止まらなくなる。皆レストランに向かった後でよかったと思いながら、ハンカチを取り出そうと小さなバッグを開けた時、羽澄さんが自分のそれを差し出してきた。

「っ……ありがとうございます。持ってるので大丈夫──」

 遠慮しようとしたものの、彼の手がこちらに伸びてくる。なんだろうと戸惑っている間に、ネクタイと同じ色のポケットチーフが頬にそっと当てられた。

 見開いた目に映る羽澄さんは、涙のせいか麗しさが増しているように見える。メイクを崩さないように丁寧に目元を拭ってくれて、鼓動が激しく乱れた。

 恥ずかしさでドキドキしつつ、彼の手が離れると同時にはにかんで俯く。

「すみません、ハンカチを汚してしまって……」
「涙は汚くなんかないよ」

 さらりと口にされたひと言にも、こちらに気を遣わせない優しさが表れている。どれもスマートに感じるのは、羽澄さん自身が放つ高貴な雰囲気のせいだろうか。

 涙が落ち着いてきて照れ隠しの笑みを浮かべると、彼も安堵したような表情になり、軽い口調で言う。