いつものようにふたりで向かい合って椅子に座ると、小さく深呼吸した私は覚悟を決めて彼に伝える。

誠一(せいいち)さん。私と、離婚してください」

 ──私たちは、お互いにとってメリットがあるため結婚した夫婦だ。最初に決めた契約期間は一年、その最終日は数日後に迫っている。

 契約結婚から生まれる、本物の愛。そんなフィクションのごとく奇跡的な恋愛を、この一年で私たちも経験することができた。しかし私は、このまま契約期間を満了して夫婦関係を終わりにするつもりだ。

 愛し合っているのに別れを選ぶなんて、愚かなことだと重々承知している。けれど、一緒にいたら迷惑をかけてしまうだけ。彼が大切だからこそ、これ以上自分が彼の負担になるわけにはいかない。

 怒りとも悲しみともつかない表情にみるみる変わっていく最愛の人の姿を、私は自分への罰だと思いこの目に焼きつけていた。