「……いや、俺は言うほどたいしたことはしてません。俺はなんでも手伝ってやるつもりだったけど、育児だけは手出しさせてもらえなかった。たぶん、その役目は父親のあんたのために取ってあるんだと思いますよ」

 意外なひと言に、俺は目を見開いた。輝明さんは初めて優しい笑みを向けてくれる。

「口には出さないけど、あいつは羽澄さんを待ってるはずです。行ってやってください」

 和やかになったかと思いきや、輝明さんは厳しい表情に戻ってすっくと立ち上がり、いい色に焼けたお好み焼きにソースやねぎを勢いよくかけていく。

「だけどなぁ! あいつんとこ行くのは、このお好み焼きを食ってからにしな。ほれ、いっちょ上がり!」
「これ、本当に美味しいんですよ。牛すじがとろっとしてて」

「千尋ちゃんのもやもやも一緒に焼いといてやったから! いっぱい食べな」

 輝明さんなりの慰めに妃も明るく笑い、熱々のそれを皿に乗せてもらっている。俺も頬を緩め、「いただきます」と言って箸を手に取った。

 芽衣子がいい人に恵まれているのは、彼女の人柄のおかげなんだろう。ひとりではなくてよかった。しかし、やっぱり一生俺のそばにいてほしい気持ちは揺らがない。

 二年間も離れてしまったことをお互いに反省して、今度こそ幸せな家族になろう。