「別れたと聞くまで、ずっとおふたりは結婚しているものだと思っていたからなんとか諦めようとしてました。でも離婚したと知って、愚かな欲が出たんです。私にもチャンスがあるかもしれない。だから、芽衣子さんの中から完全にあなたを追い出させようと、嘘をつきました」
「嘘?」
「羽澄さんは、もう新しい道に進んでいるって。芽衣子さんがあなたに連絡しないのは、そのせいもあるかもしれません。本当にすみません」

 申し訳なさそうに眉を下げて謝る彼女を前にして、複雑な心境になった。

 確かにそう聞いたら、芽衣子なら遠慮して余計に連絡を取ろうとはしないだろう。だからといって、妃を責める気にはならない。どんな理由であれ、彼女を野放しにしていたのは俺自身なのだから。

「私はふたりの邪魔をしただけで、結局今の今まで告白できなかった。本当に嫌になります。自分の中にこんなに醜い女の部分があったなんて、知りませんでした……」

 自分に落胆し、懺悔するように頭を垂れる彼女に前向きな言葉をかけようとした時、テーブルにタネが入ったボウルをドンと置かれた。目線を上げると、輝明さんが穏やかな目で妃を見下ろしている。