「すまない。気持ちに応えられなくて」

 はっきり断ると、妃はきゅっと唇を結び、“謝らないで”と言いたげに小さく首を横に振った。少しだけ心が痛むが、自分の想いを自覚できたということ自体が彼女にとってプラスになるように願う。

「羽澄さんが結婚したと知った時はショックだったし、芽衣子さんが羨ましくて……妬ましかった。彼女の前でも必死に〝いい後輩〟を演じていたけど、本当はすごく嫉妬していて。同期の子が芽衣子さんの悪口を言い振らしていた時も、あえて注意もせず黙認していました。あんな噂が広まった原因は、私にもあるんです」

 妃は恋する表情に影を落とし、さらに正直な気持ちを語った。

 妃が正義感の強いタイプだというのは、パイロット時代から知っている。そんな彼女が見て見ぬ振りをしていたのも、嫉妬心のせいなのだろう。

「妃が注意したとしても、噂は広まっていただろう。人の不幸は蜜の味ってやつで、残念だがそういう話が好きな人間は一定数いるからな。君も一緒になって芽衣子を罵っていたなら話は別だが」
「そんなことはしてません!」

 冷ややかな口調になる俺に、彼女は目を見て即答した。おそらく今の話は本当だと直感するも、彼女は「でも、謝りたいのはそれだけじゃなくて」と続ける。