それはまだいいとしても、芽衣子の頭に触れたり、『大好き』などとぬかしたりするのは、普通の店主と店員という間柄ではありえないだろう。

「本当にどういう関係なんだ、あの男とは……」
「気になります?」

 ため息混じりにぼやいたその時、水が入ったグラスを持って輝明さんがやってきた。彼は俺の顔を覗き込み、にやりと口角を上げる。

「もうちょっと内緒にしとこー」

 こいつ……。額に怒りのマークが浮き出ているかもしれないと思いつつ、完全に楽しんでいるこの男をじろりと睨みつけた。

 俺たちのやり取りを眺めていた妃は、呆れ気味のため息と笑みをこぼす。

「そんなに敵対心むき出しにするほど芽衣子さんが好きなんですね。……羨ましい」

 気だるげに片手で頬杖をついて呟く彼女。伏し目がちな表情が、長めの前髪で少し隠されている。

 アンニュイな雰囲気も魅力があり、女性から“カッコいい”と騒がれるのもよくわかるなと日頃から感じていた。しかし彼女なりの悩みがあるようで、ぽつぽつと打ち明け始める。

「私は昔から、女らしい格好をしたり、女子とつるんだりするのが苦手で。パイロットを目指した理由のひとつは、圧倒的に男性が多い世界のほうが生きていきやすいかもって思ったからでもあるんです。恋愛経験もなくて、私は男と女のどっちが好きなのか、本気でわからなかった」