素直に認め、足を踏み出そうとしたものの、思いのほか強い力で「待って!」と腕を掴まれた。不意を突かれたせいでバランスを崩す俺を、妃が向き合う形で咄嗟に支える。

「行かないで、ください」

 彼女は切なげな瞳で俺を見上げ、どこか切実な様子で訴えた。俺は眉をひそめる。

「なぜ止める?」
「……芽衣子さんのところへ、行ってほしくないだけです」

 彼女はしおしおと俯き、答えになっていないことを言った。なんだか駄々をこねる子供みたいで、いつものクールな彼女らしからぬ不可解な言動だ。

 妃の考えはよくわからないが、誰に止められても芽衣子に会わないという選択肢はない。予想もしていなかった最悪の展開が待っているとしてもだ。

「俺は彼女に、いつか必ず迎えに行くと宣言した。たとえどんな結果になろうと彼女のところへ行く。……ただ会いたいんだ」

 この焦燥は、つまるところ彼女に会いたいという単純な想いに尽きる。俺の子かもしれない子供がいるならなおさらだ。

 強い想いを口にすると、妃は俺の腕を掴む力を緩めて力なく手を離した。

「……引き止めてすみません。でも、少しだけ話をさせてくれませんか? 羽澄さんも気になるでしょう。芽衣子さんがなんでこの店にいるのか」