「じゃあ、お先に。夜も頑張ってね」
「おう! 大好きなお前らのために頑張るよー、俺は」

 男は芽衣子たちの頭をくしゃっと撫で、聞き捨てならない言葉を口にした。芽衣子と一緒に女の子も「ばーばー」と手を振り、彼女たちは商店街の反対方向へ歩き出す。

「…………は?」

 俺の口から出たのはそれだけだった。混乱している頭に浮かぶのは、先日電話した梨衣子さんとの会話。

『芽衣ちゃんを幸せにできるのはあなたしかいないと思います。迎えに行ってあげてください』

 そんな嬉しい言葉に続けて、こうも言っていた。『今のあの子を見たら驚くかもしれないけど、ちゃんと話し合ってくださいね』と。

 それを聞いた俺は、もしかして太ったのか?とか、服装やメイクの好みが変わった?とか、外見的な変化を想像していた。

 どんなふうになっても芽衣子は芽衣子だから受け入れるつもりでいたが……まさか、子供と親しげな男がいるとは思いもしなかった。

 あの子は一歳ちょっとくらいだったよな。妊娠や出産について詳しくはわからないが、時期からしておそらく……俺の子、なんだろうか。

 だとしたら、震えるほど喜ばしい奇跡が起きていたことになる。俺と芽衣子の、愛し合った証が生きているのだから。しかし同時に、出産も育児もすべてひとりで頑張らせてしまって、心の底から悔やまれる。