「お疲れ様です。羽澄キャプテン」

　わずかに口角を上げて懐かしい呼び方をするこの男は、日本アビエーションきっての期待と注目を集める若手副操縦士、天澤(あまさわ)だ。実力だけでなく、容姿でも人を魅了する彼を見上げて苦笑を漏らす。

「嫌みか？」
「とんでもない。俺にとって羽澄さんはずっと尊敬するキャプテンなんですよ」

　あと二年も経てば機長に昇格するんじゃないかと目されている天澤とは、何度かフライトを共にしていろいろと教え込んだ。嬉しいことを言ってくれるなと頬を緩めたものの、彼は椅子に腰かけながらいたずらっぽく言う。

「それとも〝航空王〟って呼んだほうがいいですか？」
「もっと嫌だね」

　即答すると、彼はククッと喉を鳴らした。

　元パイロットという経歴と、大手航空会社のトップに立って経営を立て直した実績から密かにそう呼ばれているらしいが、恥ずかしすぎるのでやめてほしい。

　天澤はジンフィズを頼み、気を楽にした調子で話し出す。

「久々ですね、こうやって飲むの。羽澄さんが社長になんてなるから、俺からは誘いにくくて」
「天澤にもそんな気遣いができたのか」
「真顔で言うのやめてください」