芽衣子は結婚している間も決して無駄使いせず、料理は基本手作りだったし、服や靴もなかなか新調しないから俺が勝手にプレゼントしていた。

 接待で使うレストランや料亭よりも美味しいと感じる料理を作ってくれて、どんな格好をしても可愛い彼女が本当に愛しかった。

 つまり、彼女がなにをしようと決して嫌いにはなれないのだ。俺のもとから離れていこうとしていても。

 小さくため息をつき、リビングから繋がるガーデンテラスに出る。椅子に腰かけてなんとなく夜空を見上げ、流れ星でも落ちてくれ、なんて思ってしまう。

 流星群を天体観測した子供の頃みたいに願いたい。彼女と幸せになる未来を。

 かろうじて見えるおぼろ月を眺めてぼんやり物思いに耽っていた時、ふいにひとつの新たな考えが浮かび、はっとした。

 芽衣子は俺が周りからの悪意ある声に邪魔されず、社長としての目標を達成できる環境を作るために離れることを決めたはず。そうすれば、彼女自身も俺が背負わせてしまっていた重荷から解放されて、平穏な日常を送れる。

 しかしそれは、一生続けなければいけないわけではない。俺が少しでも早く経営を回復させ、芽衣子への悪い印象も払拭することができれば、また一緒になれるんじゃないか。