しかし直感的に、目を見ずに口にした今の言葉は無理に取り繕ったもので、本心ではないんじゃないかと感じる。離婚を認めさせるために、あえて俺が傷つくような言葉を投げたのではないかと。

 なんの根拠もないし、自分がそう思いたいだけかもしれない。ただ、少なくとも会社での俺の立場まで考えて別れようとしているのは間違いないだろう。芽衣子はそういう優しすぎる人だと十分知っている。

 俺への愛は今もなお伝わってくる。想い合っているのに別れを選ぶのが正しい選択だと、俺にはどうしても思えない。

「俺は、君がいないことのほうが耐えられない。君がいるからこそ仕事も頑張れるんだよ。……そんな俺の気持ちはどうでもいいのか?」

 女々しくても、情けなくても構わない。どうにかして彼女の気持ちを繋ぎ止めておきたくて、説得を続ける。

 芽衣子は眉根を寄せ、唇を噛みしめて俯いていた。そして湿ったまつ毛を指で拭うと、ぱっと顔を上げて突拍子もないことを言い出す。

「……誠一さん、結婚記念日がいつか覚えてますか?」

 なぜ急にそんな質問をするんだと面食らいつつも、とりあえず答える。

「もちろん。五日後だ」
「覚えててくれたんですね」

 そんな些細なことで、彼女は一瞬嬉しそうに口角を上げた。