「最近ずっと考えていたんです。私が誠一さんの妻でいることで余計な苦労を増やしているなって。社内でも私の悪い噂が広まっているんですよね? いろんな人から聞きました」

 そう言われて、ややドキリとした。噂が本人の耳に入らないよう願っていたが、やはりそれは難しかったらしい。

 でたらめな噂を流されて、きっと嫌な思いをしただろう。悩ませてしまったことに悔しさと罪悪感を覚える。

「このまま私といたら、誠一さんまであらぬ疑いを持たれて信用を失っちゃいます。社長になったばかりの大事な時期に、それは避けたいでしょう。今後もなにを言われるかわかりませんし、不安要素はなるべく減らしたほうがいいと思います 」

 瞳に悲しみの色を濃くしながらもまっすぐ俺を見つめてくる彼女に、俺は眉根を寄せる。

 益子の隠し子が俺の妻だというのが知れ渡ってから、周りからの風当たりが強くなって困っていたのは確かだ。俺のほうも、芽衣子と結婚しているから益子の横領を黙認していたんじゃないかとまで言われているようで、正直うんざりしているし業務もやりづらい。

 とはいえ、俺はそんな戯言に屈するような柔な男ではないし、芽衣子のことを悪く言うやつらは全員に罰を与えてやりたいとすら思う。