私の密かな決意をまだ知らない彼は、色気溢れる笑みを浮かべ、キスをする寸前に囁く。

「芽衣子……愛してる」

 好きになった人が、私をこんなに求めてくれるなんて。この上ない幸せに包まれながら「私も」と返したものの、同じくらい切なくて涙がこみ上げてくる。

 こんなに大切で愛しい人を、私が困難にさらしてしまっている。元凶が父であるのは間違いないけれど、彼が仕事をする上で私の存在が邪魔になっているのは否めない。

 彼はきっと、そんなことはないと言うだろう。でも、どうしても自分が重荷になっていると感じてしまう。私のせいで彼を苦しめていると考えてしまうこと自体がつらいのだ。

 今ならまだ終わりにできる。優先すべきなのは、誠一さんが信頼できる社長として皆を率いる存在になることだ。

 心は決めた。だから今だけは、この泣きたくなるほど甘く深い海に溺れていたい。

 何度も意識が飛びそうになりながら、刻みつけるように彼の愛を全身で貪った。