しかし、事態は収まるどころかさらに悪化していく。

 四月に入って最初の土曜日、珍しくお義母様に『お茶をしにいらっしゃい』と呼ばれた。誠一さんは仕事になってしまい、悩んだ末に選んだおしゃれなお菓子の詰め合わせを持って私だけ羽澄家にお邪魔した。

 ご両親も有名店のケーキを用意してくれていて、それをいただきながら最初はたわいのない話をしていたが、しばらくしてお義父様がやや遠慮がちに問いかけてくる。

「なあ芽衣子さん、失礼を承知で聞くけれど……益子とは一度も会っていないよね?」

 やはり、ここでもこの話題からは逃れられない。でも、お義父様たちはもう私の家族だ。話さないほうがおかしいだろうと、ごまかさずに目を見て答える。

「はい。彼が父親だと知ったのも最近なんです」
「そうか。実は、社内であらぬ噂が広まっているみたいなんだ。益子が不正に手に入れたお金を、芽衣子さんにも渡していたんじゃないかって」

 お義父様が続けたその内容には、さすがに唖然としてしまった。どうしてそんな根も葉もない噂が……!?と憤るも、あのネット記事が発端かとすぐにわかった。