「俺たちに近しい人がこの記事を見ていたら、芽衣子のことだと気づくだろう。なにを言われるかわからないし、他の記者で近づいてくるやつもいるかもしれない」

 想像以上に大きな問題になりそうで冷や汗が流れる。唇をきゅっと結んでいると、誠一さんが私の頬にそっと手を当てる。

「でも、そうなったら法的措置を取ることもできる。なにかあったら、必ず俺を頼ってくれ。絶対に守るから。もうひとりでなんとかしようとするなよ」

 まっすぐ向けられる眼差しは、ぶれることのない力強さを感じる。私も彼の手に自分のそれを重ね、「わかりました」と頷いた。


 ネット記事が出た日から、私の周りはなんとなく不穏な空気が漂うようになった。仕事をしている今も、空港を行き交う人々から忌々しそうな声が聞こえてくる。

「あの子よ、羽澄さんの奥さん」
「へ〜そうなんだ。本当に地味ね」

 ちらりと目だけ動かして確認すると、ふたりのCAさんが歩調を緩めて私を見ている。あえて聞こえるように話しているのかわからないが、悪意のある声は耳に入ってくるから不思議だ。

「犯罪者の隠し子が社長の妻になってるだなんて、やっぱりおかしいわよね。なにか裏があるとしか思えない」

 きつい言葉が胸に刺さり、ズキッと痛む。

 もう彼女たちも知っているのか。親は選べないのだから、そんなこと言われてもどうしようもないのに。