「俺は、あの時から君に惚れていたんだ。きっと」

 意外な告白に、私は少々ムードのない声をあげる。

「えっ、初対面の時から!? 嘘……」
「嘘じゃない。そうじゃなきゃ結婚するどころか、もう一度会いたいとも思わない」

 しっかりと言い切ると同時に優しくベッドに倒され、真剣な表情で見下ろす彼から目が離せなくなる。

「君は内面から綺麗で、どうしようもなく惹かれた。その心に入り込んでみたくなって、次第に手に入れたくなった。誰かに奪われたくないと直感したから、強引に結婚を取りつけたんだよ」

 ずっと、政略結婚から逃れるために私を妻にしたのだと思っていた。それは理由のひとつでもあるだろうが、最初から私自身を欲してくれていた気持ちもあったのだとわかって、さらに愛しさが募る。

「……ありがとうございます。地味で目立たない、石ころみたいな私を拾い上げてくれて」

 広い広い海の砂浜に転がる小さな石が、誰かの手に取って愛でてもらえるのは、どれだけ奇跡的なことか。

 覆い被さる彼とのわずかな距離すらもどかしく、前髪がはらりと落ちた顔に手を伸ばす。