「帰ってふたりきりになったらいいか? 思いっきり抱きしめても」

 鼓膜を震わせる甘い予告に、心拍数が急上昇するのを感じながら「……はい」と頷いた。


 誠一さんがオフィスに向かった後、あんなシーンを見せてしまった後でその場に留まっているのはさすがに恥ずかしすぎて、逃げるように場所を移動した。

 すべての仕事を終えた彼と合流して、食事していくかと聞かれた私は首を横に振った。たぶん、今レストランで食事しても味がわからない気がするから。

 空港を出るまでの間、ぽつりぽつりとたわいのない話をするだけだったけれど、お互いの指はしっかりと絡めていた。

 ハイヤーに乗り込むと、この密室の中でふたりきりになった時なんて何度もあるのに、異常なくらいドキドキして身体が強張る。ゆっくり車が走り出し、お互いに目を合わせた瞬間、まるで引き寄せ合うように唇を重ねた。

 ──初めての口づけ。柔らかくて温かくて、かすかに彼の香りがする。触れているだけなのに、とびきり甘い。

 その感覚に浸る間もなく、少し開いた彼の唇がもう一度近づいてくる。夢中でそれを受け止め、息が上がってしまうほど何度もキスを交わしていた時、現実に引き戻されるクラクションの音が響いてぱっと目を開いた。