「な、何だってっ!? サミュエルとレベッカは今一緒にいるのか? しかもよりにもよって2人は恋人どうしだっていうのかっ!?」

クズ男、アレックスが喚いた。

「おや、あんた……サミュエル王子の事を知っているのかい?」

これはひょっとするとマズイことを口走ったかも知れない。

「サミュエル王子様……まさかあのレベッカと? いつのまに、そんな……っ!」

リーゼロッテが怒りで肩を震わせている。

「……くそっ! サミュエルめ……! 僕がレベッカを狙っていたのに……!」

若い男が悔しそうにしている。

「また! そうやってレベッカに対して横恋慕しているのねっ!?」

「おおっ! な、何ということだ……すぐにレベッカを我等の手で取り戻せねば! あんなガーナード王国の若造に私のレベッカを渡す訳にはいかぬっ!」

「黙れっ! 私の可愛いレベッカはお前たちにもサミュエルとか言う王子にも決して渡さぬぞ!」

「だからそんな事はどうでもいいってば! 私達はさすらいの仕事人なんでしょう? 働いて路銀を稼ぐのよっ!」

「私はこれ以上さすらいたくないのよっ! もういい加減落ち着いて腰を据えて暮らしたいわっ!」

……全くこれでは先ほどと一緒だ。それにどんどん話がずれてきている。これでは埒が明かない。

「あんた達……もう全員この村からでていっておくれっ!!」

我慢の限界で大声を上げると、何故か全員が私の方をギロッと見る。そして元、クズ夫がすごんできた。

「いいや。俺はお前からレベッカの行く先を聞き出すまでは絶対にこの村から出ていかないからな? こんな身なりをしてはいるが、こう見えても俺は金を稼ぐ手段を持っているんだ。レベッカの居所を教えてくれればお前に謝礼金を支払ってやるぞ?」

「何を言ってるんだいアレックス。お前は今迄散々レベッカをないがしろにしてきたじゃないか。それなのに今更何を未練がましい真似をしてるんだい? 大体お前は本来挙式を上げている時間に別の女性と情事の真っ最中だっただろう」

「な、何ですってっ!? アレックス様っ! 私という者がありながら別の女性とベッドにいたのですね!? ゆ、許せないわっ!」

「おい、お前達。一体何を言っているのだ? もともとレベッカを我が国の花嫁として嫁いできてもらいたいと願い出たのは他でも無い、この父である私なのだぞ?」

「何を言うかっ! お前達のような変態親子だと知っていれば可愛いレベッカを差し出さなかったのだ。あの時の私はどうかしていた、こんな事ならエリザベスか親不孝のエミリーを差し出すべきだった!」

「ちょっと! お父様っ! 今更何を言うのよっ! 自分だってレベッカを冷遇していたでしょうっ!」

「何でいっつもいっつも私の事を親不孝呼ばわりするのよっ! ふざけないでよっ!」

ますます騒ぎが悪化する。もうこっちの頭がおかしくなりそうだ。第一、私だってあの3人の居場所を知らないのに、どうやって教えろっていうんだ? こうなったらもう適当な場所を言ってさっさとこいつら全員追い出してしまおう。そこで私は声を張り上げた。

「分かったよっ! レベッカの居場所を言うから今すぐ出ていっておくれ! 西だよっ! 西の大陸に向かったんだよっ!それ以外は知らないよっ! 分かったらとっとと出ていっておくれっ!」

『よし! 西だな(ね)っ!!』

全員の声がハモった。

そして彼等は嵐のようにこの村を互いの馬車に乗って走り去っていった。その様子はまるでレースでもしているかのごとく……。

そんな彼等を見送り? ながら私はぼやいた。

「やれやれ……揉め事はごめんだよ」

どうせ適当に言った場所なんだ。絶対にレベッカの居場所なんか見つかるわけないさ。

こうして彼等が去り、再び『アルト』の村に平和が戻った――

<終>