「チッ! リーゼロッテか。何でこんな忙しい時間に来るんだろうね」

思わず本音を口走ってしまった。すると3人の男達が同時に反応した。

「「「何っ!? リーゼロッテだってっ!?」」」

「あ、ああ……そうだけど何だい? お客さん達あの女と知り合いかい?」

「い、いや! 知り合いと同じ名前だっただけだ……気にするな」

フードを目深にかぶった男は私から視線を逸らせる。

「そうかい? だけどお客さん達もあの女には気をつけたほうが良いですよ」

私はリーゼロッテの行動を注視した。相変わらずあの女は手近にいた男に声をかけている。

「全くあの女は男とみれば誰でもかれでも家に引きずり込んで股を開く女と言われてるんだからね」

「「「ブッ!!!」」」

私の言葉に3人の男達は一斉にふいた。

「ちょ、ちょっとあんた達本当に大丈夫かい? あ! リーゼロッテめ……また男を物色してるよ! ちょっと注意してこなくちゃ」

「いや! 駄目だ! 余計な真似はしないでくれっ!」

またしてもフード男だ。

「そうだよ。放っておこうよ」
「う、うむ。そうだ。それよりも料理を注文しても良いかな?」

もう1人の若い男に年配者も同意する。

「あ、ああ。そうだね。それじゃ何にしますか?」

「僕は本日のおすすめメニューにしようかな?」

「俺もそれでいい」

「私もそうしよう」

すると全員同じメニューを注文した。

「それじゃお待ち下さい」

私は急いで厨房へと向かった。




「ほい! 本日のおすすめメニュー3人前よろしくな!」

ドンッ
ドンッ
ドンッ

料理人のボブが出来上がった料理をカウンターの上へ置いた。

「あー悪い! 今手が離せなくて料理を持っていけないんだよ」

するとジョセフィーヌが返事をした。

「なら私が運ぶわよ。エミリーもエリザベスも手がふさがってるみたいだから」

「ああ、頼むよ! 6番テーブルの3人組のお客だからよろしく頼むよ」

「任せて頂戴。では行ってくるわね」

ジョセフィーヌは軽々と3人分の定食が乗ったトレーを持つとホールへ向かっていく。うん、さすがは流離いの料理人だ。彼女たちの父親も鮮やかな手付きでじゃがいもの皮を剥いているし、なかなか良い働き手が得られて私は満足していた。
しかし、その直後――

ガターンッ!!

ホールで大きな音が響き渡った。そして常連客が慌てた様子で厨房に駆け込んできた。

「た、た、大変だっ! アマゾナッ!ホールで乱闘が起こっている!」

「何だって!? 乱闘だってっ!? 全く、揉め事は勘弁してほしいのにっ!」

常連客の後を追うようにホールへ行くと、そこは大騒ぎになっていた。何と例の3人組の男達と、ジョセフィーヌ、エミリー、エリザベス、そして何故かリーゼロッテも入り混じって大騒ぎしているのだ。

「ランスッ!! どういう事よ! 何で貴方がこんなところにいるのよ! あっ!? さ、さては……貴方もレベッカを追ってるのねっ!?」


え? レベッカだって? そしてその隣ではリーゼロッテが何処か見覚えのある男にしがみついている。あ! あれは……レベッカのろくでなし元夫じゃないかっ! 確か名前は……。

「アレックス様! 嬉しいっ! こんなところでまた会えるなんて! やっぱり私達は運命で結ばれていたのねっ!?」

「やめろリーゼロッテッ! 俺はもうお前なんか興味ない! 俺の女はレベッカだけだ!」

そうだ思い出した! あいつはアレックスだ!

「お姉様! 落ち着いて!」

「そうよ! 今は仕事中よ!」

エミリーとエリザベスが必死になって、男の襟首を掴んでいるジョセフィーヌをとめている。

「お前たち! やめるんだ!」

年配の男はオロオロしている。

「何だ? 痴話喧嘩か?」
「ハハハッ! いいぞーやれやれ!」
「あの姉ちゃん達たくましいな〜」

回りは野次馬でいっぱいだ。

「く、悔しい…! どいつもこいつもレベッカレベッカッて……!」

ついにジョセフィーヌが暴れだし、持っていたトレーで男の頭を殴りつけた。

「痛い! やめろ! やめてくれっ!」

いっぽうリーゼロッテもヒステリックに喚いている。

「何よ! あんなに何度も何度もベッドの中で私に愛をささやいていたくせに!」

「う、うるさいっ! そういう台詞をこんな人前で話すな! だから俺はお前が嫌なんだ!」

アレックスは負けじと声を張り上げる。

そのうち、何故か調子にのった野次馬達も巻き込んで、ついには乱闘騒ぎが始まってしまった。

ガチャーンッ!

バリンッ!!

あちこちで食器の割れる音が響き渡る。ああ……私の大切な店がどんどん破壊されてゆく……。

その時……

バシャーンッ!!

飛んできた木のコップが頭に命中し、私は頭から水をかぶってしまった。

「……」

ポタポタと頭から垂れるしずく。

ブチッ!

ついに堪忍袋の尾が切れてしまった。

「い、いい加減にしろ〜っ!!」

私の怒声が店中に響き渡った――