「ねぇねぇ、『アルト』の村に新しい住人が増えたんですって?」

さすらいの仕事人一家が村にやって来て3日が経過した頃、私は食材の野菜を取りに『マザーキッズ』と共同で開墾している畑にやってきていた。そんな中、この村の新参者であり、お荷物のリーゼロッテが鍬を振るっている私の元へやって来たのだ。

「何だい、あんたは。また働かないでフラフラ遊んでいるのかい?」

リーゼロッテはこの村に住む住民たちとは違い、野良作業どころか屋内作業の類すら一切しないからいつも汚れが全くない服を着ている。そして1日中暇そうにぶらぶらし、時折年端もいかない少年を家に引きずり込んだりしている。

有る情報筋によると既に何人かの少年はリーゼロッテにお手付きされてしまったと言うが……これが男なら性犯罪で捕まえてやるところだ。
この村に連れてくれば問題を起こさない……いや、起こすはずは無いだろうと考えていたのに。

「あら? こう見えても別にフラフラ遊んでいるわけも無いのよ? だって家で子供たちの家庭教師をしてあげているんだもの」

リーゼロッテの言葉に鍬を振るう手を止めた。

「何? それは本当の話しかい?」

「あら? 嘘じゃないわよ?」

何しろ、この村に住む女たちは子供の頃から貧しい生活をしていたので学問が無い。識字率にも乏しく、読み書きできる者がほとんどいないのだ。当然その女達の子供も文字など読めるはずもなく……うん? でも待てよ? 確かリーゼロッテが声をかけるのは皆少年たちばかりだ。少女に声をかけている所など今まで一度も見たことが無い。

「ならどうして女の子達には声をかけたりしないんだい?」

リーゼロッテに質問し、次の瞬間背筋が凍りつく返答をしてきた。

「何言ってるの? 性教育の実習の勉強なんて男の子達にしか教えられないわよ」

何食わぬ顔で恐ろしい事を平気で言ってのけるリーゼロッテに思わず怒鳴りつけてしまった。

「あ、あんた……っ! まだ年端もいかない少年たちに何て事教えてくれるんだい!?」

「キャアッ! 何よ、おばさん! 怒鳴らないでよっ!」

「おだまり! おばさんて言うんじゃないよっ! 私の名前はアマゾナって言うんだよ! 今度おばさんて呼んだら承知しないからねっ!?」

肩で息をしながら、『アルト』の村にいた時のリーゼロッテの評判についての話を思い出していた。そうだ。そう言えばこの女……若い男と見れば、恋人がいようが、妻帯者だろうが、誰彼構わず股を開く色情狂と言われていたっけ……。

もう話を聞いていると頭痛が起こりそうになる。私はリーゼロッテを無視して畑仕事を続ける事にした。

ザクッ
ザクッ

土を掘り起こしてジャガイモを掘り起こす。

ズボッ!

おお~これは良い出来だ。旨そうなフライドポテトが出来そうだ。

「ねぇ~おばさ~ん」

リーゼロッテが話しかけてくる。

「……」

ザクッザクッ

私は無視して畑を耕し続ける。

「ア・マ・ゾ・ナさん」

「何だい! 気色の悪い呼び方するんじゃないよっ!」

鍬をザクッと土の中に埋め込み、文句を言った。

「何よ~聞こえているんじゃないの。無視する事無いでしょう?」

「あんたがおばさんて呼ぶからだろう?」

「それよりさぁ、新しく来た住民て誰? 男?」

リーゼロッテの目がまるで獲物を狙うかの如く光っているように見えた。

「おあいにく様、残念だったね。1人は中年オヤジ、残りの3人はあんたと年が変わらない女達さ。あんたと違って良く働くけどね」

再び鍬をふるい、ジャガイモ堀の作業を再開した。

「な、何よ。それ。どうせその人たちは平民出身でしょう? 私は侯爵家出身なのよ?!」

「どうかな? その4人は自分たちの事を王族だと言っていたけどね? 全く最近この村には妄想癖のある人間たちが増えた気がするよ」

背負っていたカゴをおろし、掘り起こしたジャガイモを次から次へと放り込むと乗って来た馬車に乗りみ、御者台からリーゼロッテを見下ろした。

「あんたも妄想癖ばかり言ってないでキビキビ働くんだよ」

そう言い残し、私はリーゼロッテを残して馬車で走り去った――