「いやだっ!! 絶対に俺はあんな村へ行かないぞっ!!」

俺は草原の真ん中で馬車を止めて、クソ兄貴とクズ親父と揉めていた。

「何を言うアレックス。レベッカの次の足掛かりを探るには『アルト』の村へ行くしかないのだぞ?」

クズ親父が身振り手振りで大袈裟に俺を説得しようとしている。

「そうだよ。アレックス。お前じゃないとこの荷馬車は動かせないのは知ってるだろう? 成人男性が子供みたいに駄々を捏ねるものじゃないよ」

「うるさいっ! 俺から言わせると、むしろお前らの方が余程駄々を捏ねているとしか思えない。大体何だ? 俺じゃないと荷馬車が動かせない!? 動かせるじゃねーかっ! そんな嘘に俺が騙されるとでも思っているのかっ!? 兎に角誰が何と言おうと俺はあの村だけは絶対に行かないからなっ!!」

それだけ言うと、ドカッと道の真ん中に腕組みをし、胡坐をかいて座り込んだ。

「アレックスや。何故そこまでして『アルト』の村へ行くのを拒否するのだ? 理由を教えてくれ」

親父は丸で小さい子供をあやすような言い方をしてきた。その言葉遣いに全身に悪寒が走る。

「やめろっ! その気色悪い言い方は鳥肌が立つ! 一体俺を幾つだと思っていやがるんだっ!」

「やれやれ……我が弟には困ったものだよ。だけどこんなところでぐずぐずしている暇はないよ? レベッカを探しているのは我々だけじゃないんだからね?」

ランスは大げさな溜息をつく。
「うるさい、そんな事は言われなくたって分っている。だが、あの村だけは絶対に駄目だっ!」

「いいのかな~レベッカの父親は絶対に見つけたら彼女を手放さないよ」

た、確かにあの父親はレベッカに異常な位執着していたな……。

「それだけではない。ジョセフィーヌと言うレベッカの姉はランスとの仲を嫉妬して見つけたら監禁してやるとほざいていたそうだぞ?」

父の言葉にランスはまるでとぼけるかのようにそっぽを向いて口笛を吹いている。

「良いのか? あの一族に我らの大切なレベッカを先回りされて奪われても……」

クソ親父の言葉がまるで悪魔のような囁きに聞こえる。

グッ……

俺は拳を握りしめた。

『アルト』の村……。

何故か分らないが、俺の本能が告げている。あの村はヤバイ。行っては駄目だと。
あの村にはレベッカと一度立ち寄ったことがある。あの頃の俺は本当に愚かだったと深く反省している。彼女をないがしろにしていた最低な旅行だったからだ。いや、それはとにかくおいて置いて、あの村に滞在していた時の記憶は正直あまりない。
だが……何故か分らないが、俺はあそこで恐怖体験……と言うか、屈辱的体験をしたような気がしてならないのだ。

だが……。

「わ、分った! 行けばいいんだろうっ? 行けばっ!」

やけくそになって喚いた。あの村に行くのは、はっきり言って恐怖でしか無いが、それ以上に怖かったのがレベッカを失ってしまう事だ。
レベッカの姉のジョセフィーヌ……とか言ったか?
あの女、マジでヤバイ。まるで恋に狂った女の様に俺の目には映っていた。噂によるとジョセフィーヌはレベッカに嫉妬して監禁を企てているらしいが……あの女ならきっとやりかねない! 狂女から妻を助けるのは夫である俺の役目だ。

俺はヒラリと馬車に飛び乗った。

「早く乗れ2人共! ヤング一族に先を越されるぞっ!」

俺の言葉に急いで荷馬車に乗り込む親父とランス。

「よし!乗ったなっ!? 飛ばすぞ? しっかり掴まってろっ!」

俺は手綱を振るった。

ヒヒーンッ!


愛馬のデロリアンがいななく。

「それっ!」

ガラガラガラガラ…ッ!!

途端に馬車は勢い付けて走り出す。

大草原の中、俺達を乗せた荷馬車は疾走し続けた。

『アルト』の村を目指して――

<完>