森を抜けた湖のほとりで結局、俺達は野宿になってしまった。

「は~実に情けない。グランダ王国の仮にも国王が野宿になるとは……」

父がため息をつきながらたき火の前で棒に串刺しにした魚に手を伸ばそうとした。

バチンッ!

俺はすかさずその手をはたく。

「あ痛っ! アレックス! お前、仮にも父に向って何故手をはたく!?」

「うるさい、クソ親父! 一体何匹魚を食べるつもりだっ! 1匹も魚を釣るどころか、薪を拾い集める事すらしなかったくせに! 魚は俺が5匹、ランスが4匹、クソ親父は大まけにまけて1匹だっ!」

「な、何だとっ!? 年功序列制度を知らんのかっ!?」

すると父の言葉にランスが反応した。

「へ~まさか父上の口から年功序列と言う言葉が飛び出してくるとは思わなかったよ。だったら本来なら僕が第一子なのだから、王位は僕が継げたんじゃないのかい? いいや、それにレベッカを妻に出来たはずだし」

ランスは焼けた魚にパラパラと塩を振ると口に入れた。

「お、おい、ランスッ! あまり塩を振るなっ! 塩は高級調味料なんだっ! 塩の無駄遣いはよせっ!」

俺はランスを引き留めた。大体ランスにしろ父にしろ、料理が全くできないのが困りものだ。その無知さ故、海から遠く離れた地域では塩が高級調味料と言うのを分っていない。おまけにこの地域は岩塩すら取ることが出来ない。

「全く煩い男だね。塩くらい存分に取らせてくれないんて」

ランスは溜息をつきながら俺に塩入りの瓶を渡して来た。全く、とんでもない奴らだ……って……。

「あ~っ!! お、お、お前ら~っ! よくもこんなに塩を使ってくれたな? 見ろっ!」

俺はクソ兄貴とクズ親父に瓶を見せた。中には塩が入っているが、半分以下にまで減っている。

「何だ、全く塩くらいでネチネチと……」

見ると親父は魚をムシャムシャ食ってやがる。

「あ~っ!! そ、その魚……俺のじゃないかっ!! よ、よくも……っ!」

するとランスが口を挟んできた。

「早い者勝ちだよ。誰かに食べられるのが嫌ならさっさと食べればいいのさ」

「ああ、そうだ。ランスの言う通りだ」

クソ親父が同意する。こ、こいつら……王位継承問題で仲たがいしてやがったのに、いつの間にか結託している。

「大体父上が悪いんだよ。こうなったいきさつは僕に王位継承権を譲渡してレベッカを僕の妻にしていれば、こんなことにはならなかったんだよ」

ランスは俺の目の前で塩がたっぷり振りかかった魚をうまそうに食べている。

「何を言うか、もとはと言えばお前だっ! アレックス!」

親父はさっきまで魚が刺さっていた木の枝で俺をビシッと指した。

「な、何で俺のせいなんだよっ!」

「そうだ。アレックス。何もかもみんなお前のせいなんだ。レベッカが出て行ったのも、国が滅びたのも、僕がジョセフィーヌに振られたのも……」

「おい!最後の話は俺には無関係だろうっ!? 人のせいにするなっ!」

「だが、国が滅びたのはお前のせいだろう? アレックス」

ジロリと親父が睨み付けてきた。

「アレックスだって薄々気付いていたんだろう? レベッカの持つ秘めたる力が。君は彼女を魔女呼ばわりしていたけど、そうじゃない。レベッカはきっと女神だったんだよ。その女神を大事にしてこなかったから、罰が当たったんだ。だけど酷いじゃないか。レベッカ。僕は君に親切にしてあげたつもりなのに、たかだかアレックスの兄だからって理由で僕まで嫌う事は無いじゃないか……」

ランスは男のくせにグチグチと女々しい事を言いながらため息をついた。

「全てお前が悪いのだ、アレックス。だからこれからもお前が御者を務め、我らの面倒を見るのだ! 分ったかっ!?」

こういう時だけ偉そうにする親父も、女々しいランスも全く気に入らん。こうなったら抜け駆けして1人で旅を続けようか……?

ああ、レベッカ。
お前は今一体どこにいるのだ? どうか愚かだった俺を許してくれ。

俺は密かに心の中でレベッカに許しを請うた――