ここは宿屋の路地裏――

 「ロミオ、レティオ。また今日からよろしくね」

宿屋で預かってもらっていた私達の愛馬の首筋を私は撫でた。

「ヒヒーン」
「ヒヒーン」

彼らは馬のいななき声で返事をするが、私にはもう彼らと心が通じているから何と返事をしているのか、理解している。

<はい、勿論!>
<喜んでお供します!>

皆は信じないかもしれないが、彼らは本当にこのように話しているのだ。

「レベッカ様、全ての荷物を積み終わりました」

ミラージュが声をかけてきた。

「本当? それじゃいよいよ出発ね」

荷台に乗り込むとサミュエル王子がやってきて御者台に乗り込んできた。

「あら、サミュエル王子はどちらに行ってらしたのですか?」

ミラージュが尋ねる。

「非常食を買いに行ってきたんだ。ほら、レベッカは空腹になり過ぎると気を失ってしまうだろう?」

サミュエル王子が笑顔で答える。

「サミュエル王子……」

思わずじ〜んと感動していると、不意に奥からガバッとナージャさんが出てきた。

「お酒!お酒の匂いがするわ!サミュエル王子から!」

「ええ、確かにしますね」

ミラージュも頷く。も、もしや……。じっとサミュエル王子をみると、彼は頬を赤く染めて視線をそらす。

「ご、ごめん……レベッカ。正直に言うよ、実はお酒を買うついでに非常食を買ったんだよ!」

サミュエル王子は御者台から飛び降り、背中に背負っていたナップザックを荷台に下ろすと次々と中身を取り出した。まぁ、出るわ出るわ。ナップザックの中からは合計12本のお酒の瓶が出てきたのだ。そして最後に取り出したのが、ドライフルーツや干し肉などの非常食。それも両手に乗る程度。

「サミュエル王子……これは一体……?」

ジッとサミュエル王子を見つめる。

「すまないっ! 実はついつい、様々な銘柄のお酒が売られていたので、あれもこれもと買っていたら……予算がそれしか残らなくて……」

サミュエル王子はがっくりと項垂れる。う〜ん……確かにお酒ばかり買ったのは頂けないけれど。それでも非常食を買ってきてくれたわけだし……。

「いいですよ、それでも私の為に非常食を買ってきてくれたのですから」

するとナージャさん。

「非常食ですか? 大丈夫、この『ノマード王国』の付近には小さな町が点在していますし、今回は砂漠超えはしませんから非常食が無くたって何の問題もありません! 何ならこの水晶玉を賭けてもいいですよ?」

「いえいえ、どこの世界に占い師と賭け事をするんですか」

大体、占い師と賭け事をしても絶対に負けそうな気がする。

「ところで、その会話からすると今度の行き先は決まったようだね? 次は一体何処へ行くんだい?」

サミュエル王子が尋ねてきた。

「はい、今度の行き先は東にある島、『アトラント』を目指します」

ナージャさんが答える。

「アトラント……? 確か、東の海にある陸の孤島じゃなかったかい?」

おおっ! さすがはサミュエル王子!

「そこに何があるんだい?」

「はい! その島の上空にはドラゴンが住む島があるそうなのです」

ミラージュが答える。

「え? それじゃ……」

サミュエル王子が私を見た。

「はい! 次の行き先はミラージュの故郷ですっ!」

「よし! 仲間も増えたことだし、楽しい旅になりそうだ!」

「私は自分の仲間に会うのが楽しみですわ」

「迷った時には私が占ってあげますからね」

「よし、それじゃ出発だ!」

御者台に乗り込んだサミュエル王子が声をかけた。

「「「はいっ!」」」

さぁ! 次はどんな旅になるのだろう。

まだ見ぬ世界に私は心を踊らせるのだった――


<完>