――カランカラン

酒場のドアを開けて、私達はナージャさんとの待ち合わせの酒場へとやってきた。店の中は結構な人で賑わっておリ、中でもカウンター席には人だかりが出来ていた。

「あら? ナージャさんが見当たらないわね?」

私は店内をキョロキョロ見渡した。

「ええ、そうですわね。確かに待ち合わせ場所はこの酒場でまちがいないはずですのに」

「そうだ! ミラージュ! 君はドラゴンで鼻が利くだろう? 彼女の匂いは感じないかい?」

「サミュエル王子、私は犬ではありませんわよ? 大体、様々な食べ物と飲み物、それに汗臭い体臭が入り混じっているのでナージャさんの匂いなどかき消されてしまいますわ」

「「うっ……」」

私とサミュエル王子はミラージュの言葉に気分が悪くなり、胸を押さえてしまった。知らなかった……ミラージュがそこまで匂いに苦しめられているとは思わなかった。

「あら? どうされましたか?」

「ミラージュ……」

「君は苦労していたんだな……」

私とサミュエル王子はミラージュの肩に手を置いて頷きあったその時、カウンターでざわめきが起こった。

「おおっ! すっげー!」
「当たってるよ! 姉ちゃん!」
「流石占い師だな!」

「え? 占い師?」

私はカウンターの方を見た。相変わらず人だかりだが、先程よりも人々が興奮している。

「ひょっとしてあの人だかりの中にナージャがいるんじゃないかい?」

サミュエル王子の言葉にミラージュが頷く。

「ええ、間違いなさそうですわね」

「ひょっとして占ってあげているのかしら?」

「よし、あの人だかりの場所へ行ってみよう」

3人で人だかりが出来ているカウンターへ向かった。

すると……。

「さぁ! 次は誰が占って貰いたいのかしら? 今ならおおまけにまけて、占い1人につき、銅貨5枚で占ってあげるわよ!」

ナージャさんはテーブルの上に水晶玉を置いて、ワインを飲んでいる。

「うわっ! また飲んでるわ!」

人混みに紛れながらナージャさんの様子を観察しながら、驚いてしまった。こっちはもう今日はお酒は勘弁してほしいくらいなのに。

「彼女は完全な酒豪だな、間違いない」

サミュエル王子は妙に感心している。

「ナージャさんは恐らく身体の半分はアルコールで出来ているのでしょうね」

ミラージュは納得したかのように頷いている。


二人の会話を聞きながら思った。
ひょっとするとナージャさんはこれから路銀を稼いでくれるのではないだろうか……?


****

それから約1時間後――

「フフフ……いや〜儲かりましたよ、皆さん」

麻袋に銅貨をジャラジャラさせながらナージャさんが嬉しそうに私達のテーブル席へとやってきた。

「え? ひょっとして私達がここにいること、気がついていたの?」

早めの夕食を食べていた私達の元へナージャさんがやってきた。

「あら? お食事中でしたか? 美味しそうですね?」

ナージャさんが羨ましそうにテーブルの上に乗ったオードブル料理を見つめる。

「勿論、ナージャ。君の分だってちゃんとあるからね」

サミュエル王子に言われて、にっこり笑いながらナージャさんは空いている席に座ると朝袋をドンとテーブルの上に置いた。

「皆さん。たった2時間で銀貨5枚分の稼ぎはありましたよ! 今夜はここで飲み明かしましょう!」

当然私達の返事は……。

「「「却下!」」」

だった――