結局、私達に二日酔いに良く効くとされるハーブティーを作って持ってきてくれたのはこの宿屋の女将さんだった。
どうやらこの地域のお酒は諸外国に比べ、アルコール度数が非常に高く、飲み慣れない外国人は悪良いしてしまうそうだ。そこでこの宿屋ではそんな人達の為に二日酔い専用のハーブティーをブレンドして飲ませてくれるらしい。


 1時間後――

ハーブティーのお陰ですっかり体調が良くなった私とミラージュはようやくベッドから起き上がることが出来た。生まれて始めて二日酔いというものを起こした私は感慨深く思った。

「ふぅ……それにしても二日酔いがあれほどきついとは思わなかったわ」

未だにベッドの上で横になりながら私はミラージュに話しかけた。

「ええ、私もです。まさかこのドラゴンである私を二日酔いで倒すアルコールがこの世に存在するなんて。しかも神の如き力を持つレベッカ様まで具合が悪くなるのですから」

ミラージュもベッドに横たわっている。

「そんな事無いわ。私だって風邪も引くし、二日酔いにだってなるわ。それにしてもサミュエル王子はどこまで行ったのかしら。ちっとも帰ってこないわね」

すると……。

「なら今度こそ! 今度こそ私にサミュエル王子の行方を探させて下さい!」

それまで全く存在感を消していたナージャさんが手を上げた。

「まぁ! ナージャさん、そこにいたのですね。存在が薄いのでいるのを忘れておりましたわ」

ミラージュがムクリと起き上がり、ナージャさんを見た。ナージャさんはテーブルに向かって座り、いじけていたのだ。それは何故かと言うと……。

「まさか占いを始める前に宿屋の女将さんがいち早く状況を察し、お二人に二日酔いに効くハーブティーを持って来るとは……今度こそ、お役に立ちますからね」

ナージャさんが水晶玉に手をかざした瞬間――

ドンドンドンッ!

『レベッカ! ミラージュ! 大丈夫かいっ!? 入っていいかいっ!?』

サミュエル王子の声が聞こえてきた。

「ええ、どうぞ」

ベッドから起き上がると私は声をかけた。

「失礼するよ!」

バンッ!

ドアが思い切り開かれ、部屋の中に飛び込んできたのはサミュエル王子。手には何やら不思議な植物を握りしめ、身体は泥まみれになっている。

「ああっ! また占いより先回りされてしまったわ!」

ガツン!

物凄い音が聞こえてきた。これはナージャさんは余程ショックだったのかテーブルに頭を打ち付けた音だ。

「きゃあっ! 大丈夫ですかっ!? ナージャさん!」

ベッドの上から声をかける私。

「サミュエル王子、一体何の植物を握りしめているのですか?」

ミラージュがサミュエル王子に尋ねた。

「あ、ああ……これはね『ウコン』って植物だ。二日酔いに効くらしいんだよ。ハーブを売っている店に行ったら運悪く品切れで自生している場所を店主に尋ねて摘み取ってきたんだ! で、でも……もう2人とも良くなったみたいだね」

ハアハア息を吐きながらサミュエル王子が私達を見た。

「ええ、宿屋の女将さんのお陰です」

「私とレベッカ様の為に二日酔い用のハーブティーを持ってきて下さったのです」

「そ、そうだったのか……」

がっくりうなだれるサミュエル王子。

「大丈夫ですよ、サミュエル王子。気持ちは伝わりましたから。それよりも酷いなりをしているのでシャワーを浴びて着替えてきたほうが良いですよ」

私は声をかけた。

「あ、ああ。そうだね。それじゃ行ってくるよ」

サミュエル王子は項垂れながら部屋を出て行った。う~ん……こんな事ならまだ二日酔いのフリをしておくべきだったのかもしれない。

「さて! では私達も出発の準備をしましょう!」

ベッドから降りた私はミラージュとナージャさんを交互に見た。

二日酔いも治った事だし、ノマード王国へ戻ってラクダを貸した店主に文句を言いに行かなくては!