――19時

私達4人は本日のお宿になったホテル兼食堂で皆で丸テーブルを囲んで食事をしていた。テーブルの上には香辛料がたっぷりきいたスパイシーな料理が沢山並んでいる。

「何だってっ！？　アレクックスが復縁を迫ってレベッカの行方を捜して後を追い掛けているだってっ！？」

フライドチキンが刺さったフォークを握りしめながらサミュエル王子が興奮気味に叫んだ。

「ええ、そうなんですよ」

私は頷きながらエンドウ豆のスープを飲んだ。

「それだけではありませんのよ。あのヘッポコ第一王子と変態国王までもがレベッカ様の事を狙っておりますの。恐らく彼らに掴まったら最後。監禁されてしまいますわ」

ミラージュは興奮気味に言うと、赤い果実酒をまるで水のようにがぶ飲みした。

「いいえ、違うわ。ミラージュ。監禁しようとしているのは私のお姉様よ」

「ええ、そうでしたね。確か国王と結託してレベッカ様を拉致監禁しようとしているのですよ」

ミラージュは果実酒よりも顔を赤らめている。

「何だって！　レベッカは身内に監禁されそうになっているのか！？」

サミュエル王子はチキンを飲み込むと、今度はローストビーフをカットしてかぶりついた。
う～ん……初めて会った時は私のテーブルマナーを無視した食いっぷりに笑っていたのに、すっかり野性的な食べ方をしている。……今となっては気品漂う王子の面影すら感じない。

「いいえ、そうではありません。正確に言えば、レベッカ様を捕らえてイケナイ事をしようと画策しているのが、え～っと、確かキング一族、そして拉致監禁を企てているのがレベッカ様のお姉様。そしてそんなレベッカ様を救い出そうとしているのがお父様ですね」

ナージャさんは山盛りのフルーツからブドウを取り出すと口に入れ、ついでにグラスの中の地酒を一気飲みした。

「な、な、何だってぇ～っ！！　い、一体どうなってるんだ！　レベッカは俺の物なのに……！」

「イヤアアッ！　サ、サミュエル王子！　な、何て大胆な事を言うんですかっ！？」

サミュエル王子はもう酔っているのだろうか？　大声でとんでもないことを口走ってくれた！

「と、とにか……み、皆落ち着け……」

サミュエル王子は荒い息を吐きながら私達を見渡した。

「ええ、落ち着いておりますわ。一番興奮しまくっているのはサミュエル王子、貴方ですわよ？」

ミラージュはサミュエル王子を見ながら、果実酒をラッパ飲みしている。うん、確かに私もそう思うけど……果たしてミラージュは落ち着いているのだろうか？　昔から彼女は興奮すると大酒飲みになる傾向がある。

「まあ、落ち着いてください。どうすれば彼らの手から逃げ切る事が出来るかを今占ってさしあげますから」

「おおっ！　流石はさすらいの占い師、ナージャさん！」

私はパチパチと手を叩いた。

「ではお待ち下さいね……今占いますから……あら？　おかしいですね……何もうつしだされませんね？」

ナージャさんは目の前に置かれた七面鳥の丸焼きに手をかざしている。
……駄目だ、ナージャさんは相当酔ってらっしゃる。きっと今、この場でまともなのは私だけであろう。

そこで思った。

自分だけ正気なのは損だ！

「私も徹底的に飲むわ！　今夜は飲み倒すわよ！」

そして目の前のグラスにワインを注ぎ入れ、一気飲みし、次いでに他のお客たちも巻き込んで、どんちゃん騒ぎの夜を迎えた。

ああ、楽しい。

私は迫りくる？　危機も忘れて、飲み明かした。

今後の展開を考えもせずに――