「レベッカ! 酷いじゃないかっ! また俺を1人置いて行ったのかい!?」

サミュエル王子を置き去りにしてきた宿屋兼、食堂の扉を開けるとすぐさま私に駆け寄って来てギュウギュウに自分の胸に私の頭を押さえつけるように抱きしめてきた。

イヤアアアッ! は、恥ずかしいっ!

「お、落ち着いて下さいっ! サミュエル王子! ちゃんと戻って来たじゃないですか!」


「ええ、そうですわ! 兎に角、レベッカ様が苦しんでいます! 早く離してあげて下さいな! 離さないなら超音波をぶっ放しますわよ!?」

ミラージュはドサクサに紛れてとんでもないことを言ったので、さすがのサミュエル王子もようやくその言葉で離れてくれた。

はぁ〜……苦しかった。

「いいかい、レベッカ。絶対俺を途中で捨てたりするのは無しだからね? 約束してくれよ? 君に捨てられたら俺はもうお終いなんだからな?」

サミュエル王子は私の両肩をガシッと掴むと念押ししてきた。

「はい、分かっていますよ。サミュエル王子を捨てたりはしませんので安心して下さい」

「そうかい? それなら安心だ」

ホッと胸をなでおろすサミュエル王子を見て、ふと思った。何故だろう? 最近の王子は何だか少し情けなくなったように見えるのだけど……気のせいだろうか?

「ところで……」

サミュエル王子は不意に私達の後ろに待機していた占い師のナージャさんをチラリと見た。

「彼女は誰だい?」

するとズイッとナージャさんは身を乗り出してくると片膝をつき、右手を胸の前で組む。

「よくぞ尋ねて下さいました。私の名は『さすらいのナージャ』。しがない占い師でございます。人の運命を読み解き、導き、この世の真理を探求する為に旅を続ける皆様方の旅の同行に名乗りを揚げさせていただきました」


ひええええっ!?

な、何! その大掛かりないささか妄想が入り気味のその台詞は!
『さすらいのナージャ』!?
そんなネーミング初めて聞くんですけど!

私もミラージュも目を白黒させてナージャさんの話を聞いていたけれども、サミュエル王子に至っては大真面目で頷いている。ええっ!? 今の意味通じたのだろか!? 私には少しも理解できなかったのですけど!

「なるほど、君は偉大な占い師というわけだね? 素晴らしい。いいだろう、君を我らの仲間と認定して旅の同行を許可しようじゃないか」

まあ、とっくに私達もナージャさんを仲間にすることを決めたのだけどね。

「あ、そうそう。君たちが出掛けている間にここの宿屋を2部屋手配しておいたよ。でも部屋はシングルとダブルルームなんだよ」

おおっ! こんなボロ宿なのに、シングルルームにダブルルームと言わせるなんて、これは期待大だろうか? でも誰か1人は宿屋に宿泊出来ないということだ。

すると……。

「よし、俺が外で野宿をしよう。女性を外で寝泊まりさせるわけにはいかないからね」

おおっ! さすがはサミュエル王子。あのクズ王子とはわけが違う。

「いいえ! それには及びません。私は後から割り込んできた身です。私が野宿致しますから。それにテントがあるので大丈夫です」

ナージャさんは背負ったテントを私達に見えるように後ろを振り向いた。

「本当にそれでいいのかい?」

紳士のサミュエル王子はナージャさんに尋ねた。

「はい! 勿論です! その代わり、食事だけはご一緒させて下さいね?」

勿論、私達はナージャさんの言葉に頷いた。

そして、正式にナージャさんは私達の旅の仲間にこの日決定したのだった――