「え? 今夜の宿屋はまだ決まっていないのですか!?」

ナージャさんが驚いたように私達を見た。

「ええ、とりあえずこの町に着いてからすぐ食事を済ませてここに来たのでまだ宿屋は見つけていません」

私の言葉にナージャさんが提案してきた。

「それでは私の家に泊まりませんか?」

おおっ! それは願ったり叶ったりだ!

「ええ、是非お願いします!」

「助かりますわ」

ミラージュも一緒に礼を述べる。

「では今テントを出すのでお待ち下さいね」

ナージャさんの言葉に固まった。

「え? テント?」

「どういうことですの?」

ミラージュも首を傾げる。

「ええ、私はこの占いのテントの側にテントを立てて暮らしているんですよ」

「ええっ!? それでは野宿ですかっ!?」

私の言葉にナージャは小首を傾げる。

「そうですねぇ……人によっては野宿と捉えるかもしれませんが、屋根のある場所で寝泊まりするのは野宿と言わないのでは無いでしょうか?」

「あ、あの……ちなみにどのくらいこの生活を続けていたんですか?」

「かれこれ3年でしょうか?」

「ええっ! 3年っ!」

「中々ワイルドな方ですわね……」

ミラージュも唸っている。

「で、でも食事とか入浴はっ!?」

「食事は屋台で食べたり、お店で買ってきたものを食べたりしていますよ? 入浴は勿論ここです。何の為に私がこの湖の側で暮らしていると思いますか?」

「ま、まさかここで水浴びを!?」

「はい、そのまさかです」

「まあ! こんなところで水浴びをしているのですか!?」

ドラゴンのミラージュも驚いている。

「はい、私に取って大事なものはこの占いに使う水晶くらいです。それ以外には何も固執するものはありません。なので……!」

ナージャさんは私の両手をガシィッと握りしめる。

「なので私はあなた方と同じ、流浪の旅人同様の身分! お願いです、どうか私を連れて行って下さい! 私の占いは役立ちますよ? あの追手達の動向を占いで探る事だって出来ます! 絶対お得です! 損はさせません! 今なら私とおっきなテントがついてきます!いいえ、例えついてくるなと言われても強引についていきますからね!」

「わ、分かりました! 誰も駄目なんて言ってないじゃありませんか!」

私はナージャさんの迫力に押されて返事をした。それに考えてみればまだ私は肝心な占いをしてもらっていない。お母様の行方を探してもらっていないのだから。まあ、これからナージャさんも私達の旅についてくるなら急いで占って貰うことも無いだろう。

「とりあえずはサミュエル王子のところへ戻りましょう」

「ええ、そうですね。まだ眠りこけているかもしれませんし」

私の言葉にミラージュも頷く。

「サミュエル王子? 王子さまが一緒なのですか?」

ナージャさんが尋ねてきた。

「はい、そうなんです。まぁ、最も王族の身分を捨てて私達と旅をしているのですけどね、食事中にお酒で酔って眠ってしまったので置いてきたんです」

「まぁ……そうなんですか? では私もご一緒させて下さい。これから一緒に旅をする仲間になったのですからご挨拶しないといけませんからね」

そして私達は新たに加わった仲間のナージャさんを連れてサミュエル王子のいる食堂へ向かった――