「な、な、何だったの……今の……? 怖っ! 怖すぎなんだけどっ!」

思わず自分の身体を抱きしめて、ブルッと鳥肌が立ってしまった。

「ほ、本当に何て恐ろしいんでしょう! レベッカ様をあんなに多くの外道達が狙っていたなんて……!」

「逃げましょうミラージュッ! 早く逃げなくちゃ、み、見つかってしまうわ!」

「ええ、そうですね、こんな奴らに見つかってはレベッカ様が危険ですわ!」

私達はパニック状態になっていた。何より、最後に現れた変態国王が強烈過ぎた。
じょ、冗談じゃない! 彼らに捕まったら私の……て、貞操の危機が……!

慌てて立ち上がり、テントから出ようとした時、ナージャさんが声を張り上げた。

「お待ち下さいっ! 逃げるって何処へ逃げるおつもりですか!?」

「「あ……」」

私達は顔を見合わせた。そうだ…逃げると言って、何処へ逃げれば良いのだろう?

「逃る必要など、何処にも無いではありませんか? 第一貴女はドラゴンですよね? 普通の人間がドラゴンに立ち向かえるとお思いですか? ドラゴンハンターでも無い限り、無理ですよ」

ナージャさんの言葉に別の意味で驚いた。

「ええっ!? ド、ドラゴンハンター!? そんな存在がいるのですかっ!?」

大変だ! 私の大切なミラージュが狩られてしまう!

「さぁ? 多分いないと思いますけど?」

なのにナージャさんはケロリとした様子で答える。

「な、何ですかっ!? 先程ドラゴンハンターならドラゴンに立ち向かえると仰ったではありませんか!」

ミラージュが興奮で顔を真っ赤にさせた。

「ええ、確かに大昔はいたのですよ。ドラゴンを狩る専門のハンターが。それでドラゴンの数が減って、彼らは空に住むようになったと言われているのですよ」

「なるほど、それでドラゴンたちはあの空飛ぶ島に住むようになったというわけですね? ロマンを感じますわ」

「ええっ!? ロマンを感じるのっ!? ミラージュッ!ドラゴンたちは人間に迫害を受けて空へ逃げたのにっ!?」

「あ、確かに言われてみればそうですわね?」

「でもそれでも私達の敵にもならないような相手でも追われているのは良い気がしないわ。しかも彼らは今何処にいるかも分からないし……」

するとナージャさんが自分を指差した。

「ご安心下さい、私がおりますから」

「「え?」」


「私が貴女達の旅に同行するのです! 私は自分で言うのも何ですが優秀な占い師です。何しろ神殿で予言の巫女として修行を積んできたのですから」

ナージャさんが胸をそらせた。

「ええっ!? 巫女さんだったのですか!?」

「はい、そうです」

それを聞いて私はショックを受けてしまった。酷い、あんまりだ。私の中では巫女さんという女性はおしとやかで心優しい女性だと勝手にイメージを作り上げていたのに、ナージャさんは何というかガサツで乱暴、女らしさのかけらも無いようにみえてしまう。

「まあ、ナージャさんみたいにガサツで乱暴者の巫女という女性もいるのですね?」

ミラージュは私が考えていた事と同様の台詞を堂々と本人の前で口にする。しかし、当のナージャさんは気にする素振りもない。

「ええ、そうなんです。それで神殿を追い出されたのですけどね」

なんてこと! や、やっぱりそうだったんだ……!

「それで、私も貴女方の旅に同行させていただけるのですよね?」

ナージャさんは目をキラキラさせている。

「で、でもここでの暮らしはどうするのですか? 私達は流浪の旅人ですよ!?」

「ええ、ここの生活に未練はありません! もとより、ここへは流れ着いて暮らしていたようなものなので! ね、お願いします! 仲間にして下さい!」

ナージャさんは両手を組んで私達に懇願してきた――