「おじゃましま〜す……」

「失礼致します」

テントの中に恐る恐る足を踏み入れると、テーブルの上に台座に乗せた大きな水晶玉が乗っている。そして椅子に座っている青い髪の妖艶な美女……年齢はミラージュと同じくらいだろうか?

「あの〜私達は……」

すると何故かそのお姉さんは目を見開いた。そして私とミラージュを交互に見つめ、いきなりガタンと立ち上がり、ガタガタと震えだした。
一体どうしたのだろう?

「あの〜……」

するとお姉さんは叫んだ。

「すごい! 素晴らしすぎるわ!」

「え?」

「何なんですか?」

「何でしょう?」

私とミラージュは顔を見合わせた。

「お2人のような方をずっと待っていたんです。さ、さ。狭いところですけど、どうぞ座ってくださいな」

お姉さんは私達に小さな丸イスを勧めるとブツブツつぶやきだした。

「ああ、何て事。あの高級茶葉が今日に限って切らしているなんて……こんな事ならお昼飲まなければ良かったわ。ああ、そう言えばお茶菓子も無かったわね……」

その時……。

「あの〜僕たちの事占ってもらえませんか?」

若い男女がテントを覗き込んできた。

「はぁ!? 何なんの、あなたたちは! 見て分からないのかしら!? 今取り込み中なのよっ! 早く出ておいき! 出ていかないなら水かけてやるわよ!?」

いきなりお姉さんが手元にあった花瓶をグッと掴んだ。

「うああああっ! な、なんて乱暴な占い師なんだ!」

「きゃあっ! 早く行きましょうよ!」

若いカップルは逃げるように走り去って行った。

「全く……何て厚かましい2人だったのかしら……そうだわ、店じまいの看板を出したほうが良さそうね?」

尚もブツブツ呟くお姉さんに声をかけた。

「あの〜よろしかったんですか?」

「え?何 がでしょうか?」

「あの人達はお客様だったのではないでしょうか?」

ミラージュも不思議そうに尋ねた。

「お客? あんなのは客だと思いませんわ? よくいるんですよ。将来の結婚相手を占って下さいとか、いつ頃結婚出来ますか〜とか、今みたいに私達、結婚したらうまくいくのでしょうか〜なんて、どーでもいい占いを求めてくる勘違いな客が!」

お姉さんはイライラしたようすでガタンと立ち上がった。

「あ、すみません。今店じまいの看板を出してくるので少しお待ち下さい」

お姉さんは自分の座っている背後から何やら看板を拾い上げると、私達のそばを通り抜けてテントの外へ出ていった。

ガタン

地面に看板を立てる音が聞こえた。そして再び、テントの中に戻ってくると入り口をしめてしまった。
う……何だか不安な気持ちになってきた。

お姉さんはイソイソと私達の前に戻ってくると、着席して笑みを浮かべた。

「どうも、お待たせ致しました。まずはご紹介させて頂きます。初めまして、私はこのオアシスの町で占い師をしておりますナージャと申します。どうぞよろしくお願い致します。お会いできて光栄です。あいにくお茶もお菓子も切らしておりまして何のおもてなしも出来ずに申し訳ございません」

そして深々と頭を下げてくる。

「は、はぁ……初めまして。あ、飲み物やお茶菓子はお構いなく」

「ええ、食事はすませてきたばかりですから」

私とミラージュも頭を下げる。それにしても謎だ。私は占いをしてもらうのは初めてなのだが、普通占い師というものはお客をお茶菓子でおもてなしするのだろうか?

「それで? 私に占って欲しいのですよね? 何から占えばよろしいでしょうか?」

お姉さんは明らかにワクワクしながら私達を見つめてきた――