ガラガラガラガラ……

 青空の下、草原を走る2頭の馬の引く荷馬車が私達を乗せて走る。
御者の役割をサミュエル王子にお願いして、私とミラージュは荷台の上で休んでいた。

「いいお天気ね~ミラージュ」

「ええ、本当ですね~」

ミラージュも長い三つ編みを風になびかせながら空を仰ぎ見る。

「それにしても単調な一本道ですね? でもこの先は確か森が続くんですよね?」

「ええ、そうなのよ……フワアア……」

久々に怒りに任せて力を使って天変地異を引き起こしてしまった為、眠気が襲ってきた。

「レベッカ様、力を使ったせいで眠気が襲ってきたのではないですか?」

「ええ。そうなのよミラージュ。悪いけど……寝かせてもらうわ」

「はい、どうぞお休み下さい」

ミラージュの許可を得た私はトランクケースからブランケット2枚を取り出すと、床に敷いてそのままゴロリと横になり、一気に深い眠りへと落ちて行った――



****

 夢を見ていた……。子供の頃の夢を……。

それは私が7歳の時の夢だった――


「レベッカ様。もうそろそろ小屋に帰りませんか?」

薄汚れたエプロンドレスを着た私は森の中で薪になる木を拾い集めていると、一緒に木々を拾い集めていた侍女兼、親代わりに育ててくれたミラージュが声をかけてきた。

「そうね。ミラージュ。これ位拾えばいいわね?」

背中に背負った籠の中の木をミラージュに見せた。

「ええ、上出来です。レベッカ様」

ミラージュはニッコリ笑って私を見る。

「さて、それでは一緒に帰りましょう?」

ミラージュに差し出された左手を握りしめると私達は夕陽の中、手を繋いで山小屋へと帰り始めた。
2人で仲良く手をつなぎ歩きながら、私はミラージュを見上げる。

「ミラージュ」

「何ですか? レベッカ様」

「ごめんね、ミラージュ」

「え? 何故急に謝られるのですか?」

ミラージュは怪訝そうな顔をした。

「だって、私がお父様やお姉様達に嫌われているから私とミラージュはお城に住むことを許されないのでしょう?」

「レベッカ様……」

ミラージュは私を見下ろすと、突然跪き私の右手を取った。

「何を仰るのですか? あの人達がレベッカ様を遠ざけようとするのは、彼らが本能的にレベッカ様の持つ力を恐れているからです。だから城の中どころか離宮にも住まわせずに人里離れた森の中に住むように命じたのですよ? それに何度も言いましたよね? もともと私はずっとこういう環境の中で生活してきたのです。むしろあんな意地の悪い人たちの前で城の中で生活するなんて御免ですわ」

「ミラージュ、ありがとう。でも私がもっと自分の力を自由に操る事が出来ればお城の人達にばれずに薪を作る事だって出来るのに……」

「それなら私がドラゴンの姿になって超音波で木々をフッ飛ばせば……」

「あーっ! それこそ駄目よっ! ミラージュがドラゴンだってばれたらサーカスに売られちゃうわっ!」

「いえ。サーカスに売られるかどうかは分りませんが、見世物小屋に売り飛ばされる可能性はありますわね」

そこまで言いあって、私達は何だかおかしくなって笑ってしまった。

「さ、レベッカ様。私達のお家へ帰りましょう! 今夜はイノシシのステーキですよ」

「わーい、私、イノシシの肉だーい好きっ!」

私達は笑顔で、小さいけれど2人だけのお城へ帰って行った。

けれど……こんな生活は長くは続かなかった。

城から使者が来て、私とミラージュは強引に城での生活を強いられることになったからだ。

それが私の受難の始まりとなった――