翌朝――

「ええっ!? この町にはいない!?」

朝の食堂にサミュエル王子の声が響き渡った。

「ああ、占い師だろう? 彼女たちは城下町には住んでいないのさ。ここから10km程離れた砂漠の中に大きなオアシスがあって、そこに住んでいるんだよ。『占いの町』なんて呼ばれてるけどな。そこの町は占い師達ばかり住んでるよ」

隣のテーブル席に座った、この食堂の常連の中年男性客が食事をしながら教えてくれた。

「砂漠ですか……ロマンチックですね〜一度でいいから砂漠を旅してみたかったんですよ」

私はうっとりしながらサンドイッチを食べた。

「ところで砂漠はどうやって越えれば良いんですの? 馬車は使えなさそうですね。私達には馬はレティオとロミオしかおりませんし」

ミラージュがグビグビとミルクを飲み干す。

「う〜ん……普通ならラクダに乗るのかな?」

サミュエル王子が首をひねると常連客が割り込んできた。

「そうかい、なら俺がラクダをお前さん達に1頭ずつかしてやろうじゃないか!」

おおっ! なんて良い人なのだろう!

「本当か?そ れは助かる!」

サミュエル王子は男性の両手を握りしめて、ブンブン振る。

「ご親切にありがとうございます」

ミラージュは丁寧に頭を下げた。

「本当に良い人ですね! 感謝します!」

やった! これで砂漠を超えて占い師にお母様の居場所を尋ねることが出来る! 今からワクワクが止まらない。


****

 午前11時――

 私達はラクダに乗って砂漠超えをしていた。初めの頃は壮大な砂漠の光景に歓喜しながら砂漠を進んでいた。しかし、徐々に太陽が上がり、日差しが強くなり、更に気温が上がってくると最初に感じていたワクワク感は消え失せ、今は暑さに対するイライラのほうが勝っていた。


「全く……あの男にまんまと騙された……」

カンカン照りの日差しの中、ラクダにまたがり、暑さよけに砂漠超え用のフード付きマントを羽織ったサミュエル王子がブツブツ言っている。

「全くですわ! 仮にも偉大な『ドラゴン』である、この私を騙すとは……怖いもの知らずとは恐ろしいものですわね!」

ミラージュもフード付きマントを羽織り、ラクダの上でプンプン怒っている。そしてこのラクダ、ミラージュの本性が分かっているのか、怯えながら彼女を背中に乗せて歩いているのが見え見えだ。やはり動物の勘は鋭い。彼女が偉大なドラゴンであることを本能的に察しているのだろうか?

その時……

「キャア〜ッ! こ、このラクダ……またしても唾を吐いたわっ!」

ミラージュの叫び声が響き渡る。

「ま、またなのかい? ミラージュ」

サミュエル王子が鼻を押さえながら振り向く。

「うう……ク、臭いわ……!」

私も鼻を必死で押さえ、匂いをすいこまないようにする。

「こ、この……馬鹿ラクダ! 何故また唾を吐くのっ!?」

ミラージュがカンカンに怒った途端……。

「べッ!!」

またしてもミラージュのラクダが唾を吐く。

「ぐおおおっ! く、臭い! ミラージュ! 多分君のドラゴンの気配に怯えてラクダは唾を吐いている……そうは思わないかい!? そうだ! いっそドラゴンの気配を消してみないか?」

サミュエル王子が鼻をつまみながら叫ぶ。

「そんなの無理ですわーっ!!」

等など……暫く私達はラクダの匂いに苦しめられながら砂漠を進んだ――

****

ようやくラクダの唾吐き騒動が収まった頃――

「だけど、まさか商売人だとは思わなかったわ……」

ラクダの上で揺られながら私は深いため息をついてしまった。そう、食堂で出会った親切な常連客さん……私達にラクダを貸してあげると言っていた癖に実はその正体はラクダを貸している商売人だったのだ。

これはラクダを借りた後に聞いた話なのだが、砂漠超えの為にこのマントをお店に買いに行った際に、そこの店主から聞かされた。通常ならラクダを借りた時にマントも貸してくれるらしいのだ。しかも半値で……。つまり私達はまんまと騙されてしまったということだ。

「フフフ……あの店主、『ノマード王国』に戻ったらただじゃ済まさないのだから。まずは超音波でふっとばして、気を失ったところを砂漠の真ん中へ置き去りにして……」

ミラージュは余程乗っているラクダが散々唾を吐き散らし、臭い思いをしたのが気に障ったのろう。何やら恐ろしいことを企んでいるようだけど……。

うん、とりあえずはそっとしておこう。

こうして私達はラクダに乗ってミラージュの復讐計画を聞きながら、占い師が住んでいるオアシスを目指した――