「うわあ! すごい! こんなに取れたぞ!」

サミュエル王子の歓喜の声がザアザアと川の流れる音に混じって聞こえてくる。

「私も大量に取れましたわ!」

 向こうの沢でもミラージュの金切り声が響き渡る。

ふふん、当然。

何しろ私はあの2人に自分の加護を分け与えたのだから、砂金が取れて当然のこと。もう私達の足元に置かれたトレーの中にかなりの量の砂金が入っている。
まだ砂金取りが始まってから30分ほどしか経過していないけれども、このペースでいくと終了する頃には店主が泣いてしまうほど大量に砂金が集まるに違いない。

「ふんふ〜ん」

鼻歌を歌いながら川底の砂をすくって川の水で洗っていると、再び大量の砂金が集まる。

「怖い……自分の能力が怖くなるわ」

など独り言をつぶやいていると、人の気配を感じた。

「ん……?」

顔を上げて、私は思わず叫びそうになってしまった。何といつの間にか私の周辺には20人近くの人々が集まり、全員が目の色を変えて砂金集めをしている。

「キャーッ!! やったわ! やっぱりここが一番砂金が取れるポイントなのよ!」

きれいなお姉さんが自分の皿の中に砂金が溜まっている様子を見て悲鳴をあげた。

「ぬおおお! わしもだ! わしも砂金が集まったぞ!!」

口ひげを蓄えた年齢不詳の男性がガッツする。

「やったー! 俺もだ! これで1ヶ月は遊んで暮らせる!」

若いお兄ちゃんが飛び上がって喜んでいるが……いや、遊んで暮らさず、真面目に働きましょうよ。

そんな彼らの様子を呆然と眺めていたが、ハッとなった。ま、まずい。こんなに人が集中しては私の取り分の砂金が彼らに取り尽くされてしまうかもしれない!

私は急ピッチで他の人達に負けじと川底をさらった――

****

3時間後――

ピーッ!!

麦わら帽子をかぶった店主のおじいさんが笛を吹き鳴らした。砂金採り終了の合図だ。

「あー大量だったな〜」
「ほんと、こんなに取れるなんて思わなかったわ」
「俺達は運が良かったんだな!」
「また来ましょうねー」

等言いながら参加者たちは受付のおじいさんの元へ道具を返しに行く。私も彼らの後を付いて歩いていると、別の場所で砂金を集めていたミラージュとサミュエル王子が駆けつけてきた。

「レベッカ様!」
「どうだった?レベッカ!」

2人は笑顔で砂金がたっぷりはいったトレーを持っている。

「おお〜! すごいじゃない! 2人とも!」

私は2人のトレーを見て笑みを浮かべた。

「ええ、これも全てレベッカ様のお陰ですわ」

「やっぱり君は幸運の女神なのかもしれないね」

2人とも目をキラキラさせて私を見る。

「ふふん、まあね〜。ほら、私のも見て頂戴!」

私は2人の前にトレーを差し出した。そこにはミラージュやサミュエル王子の倍以上の砂金が入っている。

「おお〜! すごい!」

「さすがはレベッカ様ですね!」

「ええ、これで私達は今日からお金持ちよ! さあ、おじいさんのところに行って道具を返しに行きましょう!」


****

「ええっ!? あ、あんた達もかい!?」

道具を返しに行くと、おじいさんが悲痛な叫びを上げた。

「あら? なにか問題でも?」

集めた砂金を袋に詰め終わったミラージュがおじいさんをじろりと見た。

「問題? 大ありだよ! いいか!? 砂金は元々採掘量が少なくて取れる量が決まってるんだよ! それを今日の客はごっそり砂金を集めてしまって……これじゃうちは倒産だよ! 頼む! せめて半分……いや! 3分の1でいいから置いていってくれ!」

泣きつかれてしまった。う〜ん……どうしよう。返してあげようか? しかしミラージュが言い切った。

「悪いですわね、店主。諦めて下さいな。私達にも生活がかかっているので」

「ああ、そうだ。俺達はこの女性の生き別れとなってしまった母を探す旅をしているのだ。旅は資金が必要だ。よってびた一文返せない! 悪いが諦めてくれ!」

「そ、そんな〜!」

こうして私達は泣き叫ぶおじいさんを残し、川を後にした。

う〜ん。ちょっぴり良心が痛むけれども、噂によるとあのおじいさん、結構阿漕な商売をしていたらしいから、お灸をすえるには丁度よいのかもしれない……かな?

でも、これで懐が潤った。

私達は大満足して岐路に着いた――